妻から、起こされます。

「お父さん、お父さん」と掛けた布団を揺すります。

まだ早いのに、何言っているの・・・・・・・。

 私は、已む無く眠い目を開けます。

「お父さん、お父さん、聞こえるでしょう。鶯が、鶯が・・・」「ホケキョウーて、鳴いている」

 妻は、ガラス戸を開き、庭側を指差して言います。

数秒置いて、確かに聞こえてきました。

「ホー、ホケキョウー」と発します。

そうなんです。鶯の鳴く声なんです。

澄んだ高い声で、また発します。「ホー、ホケキョウー」

 直ぐ私は布団から出て、妻が開けたガラス戸に立ち、隣庭の木々に目をやります。

「何処に、何処に」と追います。

いました、いました。

 一羽の小鳥が、枝にとまっています。

綺麗な色の羽根をしています。

すずめとは違って、嘴がとがり、尾も少し細長く伸びています。

鶯です。鶯が直ぐ目の前の木の枝にとまっているんです。

小さな嘴をあけ、「ホー、ホケキョウー」と鳴きます。

 梅の時節もトウに過ぎています。

今東京は、何処も桜満開、一部散り始めています。

いやぁ、この時期何処からともなく飛んできた鳴く鶯を、真近に見るとは・・・・・・・。

 私ら老夫婦は、暫し目線を注ぎ、「ホー、ホケキョウー」と鳴く鶯の声に聞き入ります。

昨年の7月に、こちら若林に引越し来て、アパートの仮住まい生活をしております。

何かと狭隘な不自由な日々の生活で、正直ストレスも時にはたまります。

 前住所の三軒茶屋は、結構樹木も多く、木々の葉や花にも恵まれて、時折小鳥が舞い降りてきました。

2月、3月頃の時期には、鶯も目にすることもありました。

「ホー、ホケキョウー」と鳴く鶯の声も、久しぶりに心地よく、私らの耳に響き入りました。

 今日は、きっと良き一日となりましょう・・・・・・。

あぁー、だいぶ時間も経ったようです。

「お母さ~ん、朝ごはんにしようよ~」

「は~い」と妻の声。

 炊き立てのご飯の匂いがします。

今日は、何の味噌汁かな・・・・・。