昨日の夕方はアントワープのオーケストラ、ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会へ。曇っていた昼間のブリュッセルでしたが、ハイウェイで北へ向かうにつれて薄日が差してきて、アントワープに到着した19時前にはほんのり淡い薄紅色の空。そんな空もコンサート開始前には暗くなりはじめ、ほんとこの二、三週間で日の落ちるのがウンと早く感じられること。気がつけば、日の入り時刻はもう限りなく19時なんだもの、無理もないですね。

さて、そんな晩秋の雰囲気も漂う本日のプログラムは北欧ナイト。ちょっとクラシック音楽としては傍流扱いの北欧ですが、荒々しいくも透き通るように美しい自然豊かな国々。そんな空気感を織り交ぜた音楽が生み出されています。そんな北欧音楽から今夜はフィンランドの作曲家シベリウスのヴァイオリンコンチェルトと、デンマークのニールセンのシンフォニー。

 

シベリウスヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47

ニールセン交響曲第5番 作品50

 

そして、コンチェルトのソリストは クリスチャン・テツラフ Christian Tetzlaff 。何人か居る僕の好きなヴァイオリニストの中でもトップクラスの一人。こちらもお気に入りの協奏曲シベリウス・コンチェルト×テツラフという見応え、聴き応え十分の組み合わせ。俄然期待が高まります。

僕が彼の演奏を生で聴いたのは2008年のロンドン。テムズ川沿いのロイヤル・フェスティバル・ホール。その時演奏したのは、ブラームスのコンチェルトだったんですが、強く僕の記憶に刻み込まれたのでした。演奏自体が素晴らしかったのは言うまでもないのですが、第2楽章からほんの少しの間を置いて直ぐに最終の第3楽章に移る際、弦を強く引いて始まるのですが、そのしょっぱなの音とともに弦が切れてしまったのです。当初コンサートマスターのヴァイオリンを代用しようとしたのですが、結局袖に下がって戻ってきたのでした。そんなエピソードも相まって印象深い演奏となっていたのでした。

こうした背景があって始まったコンチェルト。出だしで弦楽器の奏でる静かなハーモニーが、北欧の澄んだ湖面に立ち込めた霧の中というような雰囲気を醸し出しているところに、ソロのうっとりするような美しいメロディーがそ〜っと入ってきます。一隻の小舟がその霧の奥のほうから静かに姿を表すようなイメージでしょうか?その後どんどんこちらに近づくに連れて徐々にピッチを上げてロマンチックに盛り上げていくのですが…。最初からヴァイオリンソロの俺様的な演奏が続いていきます。

 

一度ソロが休止して戻ってきてから、オケと対峙するのですが、そこからテツラフのヴァイオリンはどんどんスピードが加速。そしてまた、どんどん独創的に展開して行ったのでした。今までに聴いたことのない独特の節のついたソロ。僕の貧弱なボキャブラリーで一言で表せばロック調。タイトルにしたRock'nなのであります。そのロックンなテツラフに付いて来れないオーケストラという印象がちょっと残念でした。

第2楽章は他の作曲家のコンチェルト同様、アダージョらしくゆったりと落ち着いた楽章で、テツラフのソロもバラード調だったのですが、第3楽章はまたロックンに戻ってノリノリ。最後まで自分の信じたスタイルを貫いてフィニッシュしていました。僕もYvesも普段はあまりスタンディングオベーションしないほうのですが、この演奏には思わず席を立って拍手を贈りましたよ。

Yvesに感想を訊くと、同じ独創的でもジプシー調に聴こえて、オケもよく応えていたと大満足のようでしたが、僕のほうはオーケストラのほうがテツラフのスタイルと齟齬をきたしているように聴こえました。ロマンたっぷりのスタンダードな弾き方をする他のソリストならば、何の問題もなかったと思うのですが、テツラフの明らかに何か新たな挑戦をしている姿勢とはマッチしてなかったのでした。

 

齢75歳の首席指揮者 エド・デ・ワールト にはテツラフのこの斬新なアプローチを掴み取って、ソリストとオーケストラの橋渡しをして纏め上げるだけの感覚を持ち合わせるには、厳しいお歳なのだろうと思いますし、それを求めるのも酷なのかもしれませんが、もう少し若い指揮者だったらどうだったろう?とやっぱり想像してみたくなります。例えば、彼の前の首席指揮者、同じオランダ人の ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン だったら、大成功してたんでは?などとね。

 

 

こちらの花束贈呈は、カジュアルでTシャツ姿のお兄ちゃん


後から団員から聞いた話では、リハーサル時にテツラフからは細かい指示がリクエストされていたようですが、第一楽章ではそれがうまく噛み合わなかったのでしょうね、でも後半はだいぶ修正された印象だったので、そこは良かったなぁ、と。シーズン初めの大物ソリストを迎えた演奏会では、ソリストの演奏がビッグネーム故の過大な期待からかイマイチに感じてしまう傾向にあったので、そのジンクスはいい意味で破られました。

テツラフについてのエピソードをもうひとつ。今年6月にもエリザベートコンクールの後で、ピアノのアンスネスを交えたピアノカルテットのリサイタルでも聴いていましたが(この時のプログラムは僕は馴染みがなく、感想のほうはご容赦のほど…)、その時の風貌に驚きましてね。それまでは、細縁メガネにこめかみの辺りは短くした髪型で真面目を絵に描いたようなそのお姿だったのですが、この日は顎のラインくらいまでは到達していたと思われるソバージュ姿でメガネもなし。ステージまで距離があったせいもあって、本人が欠場で代役のヴァイオリンが出てきたと思ったのですが、休憩後に前のほうに移った友人が本人だった!と教えてくれ、一同驚愕だったのでした。

昨日もその伸ばした髪は侍のように後ろで結って耳は出ておりましたが、奏でるヴァイオリンも尺八のようなかすれたような音が所々。アンコールで披露した『無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第2番 BWV1004 サラバンド』(こちらは、エリコン2005年の優勝者セルゲイ・ハチャトゥリアンのアンコールの様子でご覧下さい) 調べれば、昔はストラティヴァリウスを弾いていたのが、現在は同年生まれの同じドイツ人の弦楽器製作者 シュテファン=ペーター・グライナー のヴァイオリンを使っているのだとか。

 

アンコールの様子


今年50歳になる(なった)ことによる大きな心境の変化があったのではないかと、勝手に想像する僕ですが、常に新しいスタイルを希求するお姿はやはり凛々しいのです。

休憩時にバックステージでヴァイオリンの友達と話しをしていると、テツラフさん私服姿でベルギービールDuvelを片手に登場。団員、ホール関係者の労いの挨拶に合わせ、僕らからも「素晴らしい演奏をありがとう!」と感謝の言葉を掛けられながらビールを楽しんでいました。

いろいろ周りと話していたら、ロンドンでの演奏のことも交えてソリストにも伝えたくなって、ちょっと楽屋へ。一緒に写真を撮っていただきました。

 

向こうから腕をまわしてきたりして、とてもフレンドリーで気さくな人で、ステージ上のストイックでちょっとエキセントリックなイメージと真逆で、物静かな方でした。感激です!

 

彼の挑戦とは比べものになりませんが、これを機に初の顔出ししちゃいます(笑、こないだの声出しに続き)。


演奏スタイルとは全く違うのですが、テツラフ演奏(第一楽章のみ)のシベリウス、Youtube動画を見つけたので、聴いてみてくださいね。



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