天文学者のフレッド・ホイルは、生命ができる確率について「がらくた置き場の上を竜巻が通りすぎたあとにジャンボジェットが組み上がっている確率」程度であり、それは10の4万乗分の1ほどだと言っているそうです。それほどできにくいものが、なぜ地球にはこんなに存在するのか?現在、「生命の起源」についての仮説として圧倒的な支持を集める「RNAワールド」が説明できないこの問いに、アストロバイオロジーの第一人者である著者が、「生命の起源」研究の経過と論点について整理しながら挑みます。

 

地球や宇宙の歴史を考えると、ほんの一瞬とさえ言えないような僅かな期間しか活動できない人間が、その個々の人生の中では図り切れない巨大で悠久の世界の現実にどこまで迫れるのか。

 

遥かに遠くの宇宙で起きていることを探りながら、この地球で、太陽系で、何が起き、私たちの元となった生命がどうやって生まれて来たのか。

 

一部、理解に苦労した部分もありましたが、全体には、素人でも分かりやすく整理されていると思います。

 

どう頑張っても実際に見ることも触れることもできない世界のことをどのように知り、理解するのか、その過程も興味深く読むことができました。

 

生命の起源を明らかにする過程で、生命とは何かという問いに向き合うことになり、生命の本質を深く探ろうとするほど生命と非生命を分ける線が不鮮明になっていく。一つの事実が分かることで、新たな疑問が生まれ、そのサイクルが学問を深めていく。そこにワクワクドキドキ感があり、興味深く読むことができました。

 

昔は、もっと生命と非生命の間にははっきりした溝があり、その2つは明確に線引きされていたような気がします。けれど、この世界に存在する声明についての知識が増え、理解が進んで行くと、必ずしも生命と非生命が明確に分けられるとは言えなくなってくる。細かく深く探求することで他のものとの違いが明確になる面もあれば、その枠に収まりきれない様々な"例外"の存在が明らかになることで逆に曖昧になる部分もあるというのは面白かったです。

 

知る、研究するということの奥深さと、人間の知りたいという欲求が如何に強いものであるかを実感させられました。

 

 

講談社BOOK倶楽部公式サイト内

『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(小林 憲正):ブルーバックス|講談社BOOK倶楽部 (kodansha.co.jp)