よるべない恋の物語12編。

 

「いまだ覚めず」 大晦日の前日、"あたし"はタマヨさんに会いに三島に行き...。

 

「どうにもこうにも」 "私"は、つきあっている井上の元カノであり、10年前に亡くなったモモイさんに憑りつかれ...。

 

「春の虫」 10年来の友人、ショウコさんが、ヨーコの元を訪ねてきます。ショウコさんは、恋人だと思っていた男性に騙されたばかりで...。

 

「夜の子供」 朝子は、一緒に暮らしたことがある竹雄に偶然出会い、2人はそのままナイターを見に行くことになり...。

 

「天上大風」 結婚して13年間たち、"私"は夫から離婚を言い渡されます。そのことをミヤコさんに相談する中で、私は色々いと気付かされ...。

 

「冬一日」 同じ曜日の昼間に短い逢瀬を繰り返していたそれぞれ家庭を持つ"私"とトキタさん。年末が近づいた頃、田舎に帰ったトキタさんの弟のアパートで鍋を囲むことになり...。

 

「ぼたん」 メンドリを連れて公園に来るミカミさん。"私"はミカミさんと話をするようになり...。

 

「川」 鳩子と一郎は、いつも一郎の住まいの最寄り駅の改札口で待ち合わせていました。ある日、川岸でコンビニで買った物を飲み食いし...。

 

「冷たいのがすき」 僕、田島と章子は、僕が45歳、章子が35歳の時から6年間の付き合い。冷たいのが好きな章子をいじらしくもうとましくも思いながら、章子から離れられずにいて...。

 

「ばか」 藍生の妻子がある恋人は「しんでしまいたい」とつぶやくようになります。夏が終わる頃、女友だちと飲んだ藍生は、終電が出た後の線路の上を歩きだし...。

 

「運命の恋人」 恋人が桜の木のうろに住み着き、やがて、夜行性になり、指の間には水かきまでできてしまいます。"わたし"は、他の男性と結婚し、子どもができ、孫もでき...。

 

「おめでとう」 西暦3000年1月1日のわたしたちへ

 

 

どこかにありそうな、なさそうな恋のひとつの場面が切り取られています。誰かを愛したり、誰かに愛されたり、恋の切なさを味わったり、互いに想いあう幸せを感じたり、通じない遣る瀬無さに苛まされたり、様々な思いが交錯する中で、人と人はすれ違ったり、結ばれたりします。

 

世間や常識、世の中一般といったものから外れているようでいて、ギリギリ、世の中に引っかかっているような微妙な「ズレ」が魅力。淡々としてサラッとした潔さが心地よく、ちょっとした切なさが気持ちに引っかかります。

 

美しい花々が咲き誇る花壇の隅に静かに咲いている地味な花を見つけたような、あまり人通りも多くないひっそりとした場所に居心地の良い喫茶店を見つけたような、そんな喜びが味わえる一冊でした。

 

 

 

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川上弘美 『おめでとう』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)