町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、その犯行が予告され、人々に殺人が行われることが知れ渡っていたにもかかわらず、誰にも阻止されることなく、殺人事件が実際に起こってしまいます。なぜ被害者は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町で30年ほど前に起きた殺人事件の背景を探ります。

 

登場人物が多く、断片的な情報が、様々な立場から語られていくので、分かりにくい面もありますが、そのことにより、物語に厚みが加えられ、登場人物たちを超えた物語が浮き上がってきます。

 

本作は、ひとりの主人公とその周辺の人物の物語というよりも、ひとつの町の物語と言った方が良いのかもしれません。町の人々の作為、不作為が様々に絡み合い、重なり合って、ひとつの殺人事件を生み出してしまう。事件を防ぐチャンスは沢山あったにもかかわらず、数々の偶然が、人々を悲劇に向かわせます。犯人たちでさえも、本心からは起こることを願っていなかった事件だったにもかかわらず、関係する人々は、逃げることができない宿命に囚われていきます。

 

事件を丹念に取材していくような著者の視点が、ドキュメンタリーのように事件に至る道筋を紐解いていきます。

 

文庫本で140ページ弱の物語ですが、登場人物たちの関係性だけでなく、その人々を取り巻く閉塞感、町と時代を感じさせる独特な価値観や因習が浮かび上がり、非常に凝縮された濃密な物語となっています。

 

結局、犯人が被害者を殺害した動機となったことが事実だったのか否か、本来、事件を解明するために重要なポイントであるはずのことが、明確にされないまま...というより、ほとんど追及されないまま物語は終わりを迎えます。そこに焦点が当てられなかったことこそが、事件が"町の人々に求めらていた"ものであったことの証左なのかもしれません。

 

読み終えるのにエネルギーが必要な小説ですが、読み終えて納得の満腹感が得られました。

 

 

 

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ガブリエル・ガルシア=マルケス、野谷文昭/訳 『予告された殺人の記録』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)