さえない高校教師マーティンと同僚3人は、ノルウェー人哲学者が主張する「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を確かめる実験を開始。仕事中でも構わず酒を飲み続けほろ酔い状態を保つと、授業も楽しくなり生徒たちとの関係も良くなっていきます。仕事だけでなくプライベートも好転するかと思われましたが...。

 

ノルウェー人哲学者の"学説"の検証というのは、まぁ、都合のよい言い訳にしか聞こえません。教師という本来生徒たちに範を示すべき職業に就いたイイトシの大人たちが、悪ガキのようなノリでオバカな"実験"に挑みます。

 

その過程で、このおバカなオジサンたちにも、それぞれに苦しみや悩みがあることが浮き彫りにされ、しんみりさせられる部分もあったりしますが、基本的に静かに物語が進んで行きます。

 

確かに、"酒は百薬の長"などとも言われますし、その"効能"について、洋の東西を問わず、時代を問わず、様々に語られてきています。しかし、一方で弊害があることも確か。アルコールに依存し、自身の人生を破滅させ、さらに、家族や周囲の人々にも大きな悪影響を及ぼしてしまう人々も少なくありません。本来、飲む飲まないは、個々人のコントロールの問題のはずですが、依存性の強い物質は、人の理性を壊していきます。

 

アルコールの血中濃度を一定に保つため、日中も飲酒を続けます。どうやって、仕事中に飲酒をするのか、色々と"工夫"がされていますが、実際にはそんなことをしても臭いでばれるでしょう。そして、アルコールにハマっていく過程のそれぞれの苦悩の部分もやや弱く、観ていても違和感を拭えません。

 

"実験"という言い訳に逃げざるを得なかったオジサンたちの弱さは、滑稽ではありますが、しかし、その弱さは誰の中にでも大なり小なり存在するもので、罪ではありません。その弱さに対する温かな視線と、弱さゆえの罪を受け入れる優しさを社会が持てるかどうか、そんなことも問われている気がしました。

 

マーティンを演じたマッツ・ミケルセンのラストのダンスは見事でした。流石に元ダンサーです。ここに辿り着くまで、ガマンが必要な場面もありますが、我慢する甲斐はあると思います。

 

 

 

公式サイト

映画『アナザーラウンド』オフィシャルサイト (anotherround-movie.com)