町田圭祐は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していました。県大会での優勝の可能性が見えてきた3年生の最後の大会で、わずかの差で出場を逃してしまいます。その後、陸上の名門校、青海学院高校に入学しますが、ある理由から陸上部に入ることを諦め、同じ中学出身の正也から誘われて放送部に入部することになり...。

 

青春の甘酸っぱさ、真っすぐさには、少々、気恥ずかしいものを感じてしまいましたが、嘘っぽくなく、リアリティが感じられるなかなか素敵な爽やかさに溢れていました。

 

夢に向かって努力した結果が報われても報われなくても、最初に望んだものを貫いても、途中で方向転換しても、その先に手に入れられるものがある。願った方向に向かえなかったとしても、幸せも生きがいも手に入れることはできる。何かに全力で取り組んだという体験それ自体から、私たちは多くのことを得ることができるのでしょう。

 

努力が報われるかどうかには、運だとか、時代背景とか、自分の力だけではどうにもならない要素が色々と関わってくるものです。けれど、努力したという経験は、決して誰に奪われることもなく自分の中に残るもの。

 

安っぽい感動ドラマになりかねない青春の爽やかさの中に、高校生ならではの悩みや苦しみ、暗さが程よくブレンドされ、物語のスパイスとなっていました。

 

作者の分身とも思われる"パン屋のおばさん"もいい味出しています。

 

特別に尖がった部分はなく、全体に地味な印象も受けましたが、地に足着いた安定感が心地よかったです。"放送部"の活動実態にも興味深いものがありました。中学生くらいでこんな小説を読んでいたら、高校で放送部に入っていたかもしれません。

 

続編の「ドキュメント」も読んでみようと思います。

 

 

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「ブロードキャスト」 湊 かなえ[角川文庫] - KADOKAWA