本のタイトルは「文字渦」

 

文字渦

緑字

闘字

梅枝

新字

微字

種字

誤字

天書

金字

幻字

かな

 

の12編の短編が収められています。それぞれが独立した小説になっていますが、何編かに登場する人物がいたり、出来事として繋がっている部分があったり、関係しているようなしていないような、それでも、よくよく目を凝らすと細部で繋がりが見えてきたりもします。連作小説といったところでしょうか。

 

SFな部分と、歴史的な事実が元になっている部分と。歴史、宗教、古典などについての教養が要求される部分もあり、辞書片手に読みたくなる作品でした。

 

決して、文章そのものが難解なわけではありませんが、正直、よく分かりません。何を読まされたのだろうという不思議な空気感に包まれます。

 

それでも、何故か、読み続けてしまうのは、作品の世界に惹きつけられてしまうのは、作品の元となる世界がしっかりと構築されているからなのかもしれません。恐らくは、作者の中に確かな世界が造り上げられていて、その一部を描いた物語が提示されているのかもしれません。

 

そして、日本語の表記の特性を十分に生かした(=他言語への翻訳不可能な)内容。"ルビの暗躍"の物語など面白く読むことができました。

 

文字が生きている。"言霊"と言い、言葉にも生命や霊力が宿っているという考え方もあるわけですが、言葉に命があるのであれば、文字にも...ということになるのでしょうか。

 

IT技術の深化に伴い、私たちの属性や生活の一部はデータに置き換えられてきています。特にお金。勤務先から金融機関に、金融機関から私たちが使う物やサービスを売る店や業者に、現物ではなく、データが送られていきます。クレジットカードや電子マネーで支払いができる場所が増えるに応じて、銀行口座から引き出すお金は減っています。そう遠くない将来、お金の現物を目にすることなく、データだけで金銭のやり取りをするようになるかもしれません。見る物、聞く物もデータが主流になってくるでしょう。

 

その時、生きているのは私たちなのかデータなのか...。私たちはその境目を見失っていくのかもしれません。

 

 

新潮社公式サイト内

円城塔 『文字渦』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)