児童文学作家マイケル・モーパーゴ原作の同名小説を映画化した作品。原作は未読です。

 

第二次世界大戦中、ナチス占領下のフランス。スペインとの国境沿いにあるピレネー山脈の麓にある小さな村にある日、1人の男がやって来ます。彼はベンジャミンというユダヤ人で、彼の目的は、ユダヤ人の子どもたちをピレネー山脈を越えてスペインへ逃がすという計画の実行することでした。村の羊飼いの息子で13歳の少年、ジョーはベンジャミンの計画に賛同し、彼に協力するようになり...。

 

占領する側とされる側。敵対関係にあっても、緊張感のある関係にあっても、同じ空間で日々を過ごせば、そこに人間的な交流が生じることもあるのでしょう。本作では、ナチスドイツの将校や兵士たちは、理不尽な支配者ではあったけれど、温かさや優しさも持ち合わせていることが描かれています。そして、ドイツの将校がベンジャミンたちの企みに気づきながらも見逃している可能性にも言及されています。

 

ヒトラーが人類史上最悪の特異な人物で、彼を除外すれば二度と同じ問題が起こらないといわけではありません。独裁者は後を絶たず、多くの自国民、そして周辺の国々の人々を犠牲にしている為政者は今もこの世界に存在します。ナチスの一員だった人たちも、個々の人を見れば、普通の人だったりすることもあるわけで、本作に登場するナチスドイツの将校や兵士も、平時に普通の人として村人たちに出会っていたら、互いに良い友人になることだってできたかもしれないのです。

 

ごく普通の人を残酷な殺人者に変えてしまうところに戦争の負の一面があるのでしょう。本作のナチスドイツの将校や兵士たちと村人たちの物語は、そんな戦争の本質に触れているように思われました。

 

そして、苦しさを強いられる中でも、目の前で行われる不正義に抵抗する人々の存在。十分な食料を得ることすら難しくて自分が生活するだけでも手一杯はずの余裕のない人々が、見つかれば自分の命が危うくなることを知りながら、大人たちの戦いに巻き込まれていく子どもたちを救うために力を尽くす。当時のヨーロッパ各地で起こっていた事実です。歴史の中にその名も忘れられていった普通の村人たちが果敢に難題に挑んでいく姿には、人間という存在への希望が感じられます。

 

スペインに向かう子どもたちが羊の群れと山を越えて行く場面は、その美しい風景とともに目に沁みました。

 

地味ですが、人間というものを考えさせてくれる心に残る作品となっています。

 

 

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