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原題"Vice"には"悪"、"邪悪"、"欠陥"等の意味の他、官職等を示す名詞の前に付けて"副~"、"代理~"といった意味があります。最"悪"な"副"大統領の意味をかけたタイトルになっています。

 

1960年代半ば、酒癖の悪い青年チェイニーは、後に妻となる恋人のリンに尻を叩かれ、政界への道を志します。下院議員、ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表と裏を学んだチェイニーは、次第に権力の虜になっていきます。大統領首席補佐官、国防長官を経験し、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任した彼は、いよいよ入念な準備のもと、影の大統領として振る舞い始めます。2001年9月11日の同時多発テロ事件ではブッシュを差し置いて危機に対応します。法を捻じ曲げ、国民への情報を操作し、ついに、イラクとの戦争に突入し...。

 

ジョージ・W・ブッシュ政権で何が行われていたか。大統領に比べ表に出ることが少なく、国民の印象にも残りにくく、批判の矢面に立たされることも少ない立場にいたチェイニー副大統領が、いかに強力な力を手にし、それを行使したかが描かれます。

 

実在の人々が実名で登場し、出演陣が過去のニュース映像に登場する本物たちと違和感のない程そっくりになりきっていて、まるでドキュメントを観ているような気分でした。

 

いかに権力を強めていったか、それを可能にする土壌を作っていったかその過程が描かれるのですが、恐ろしいのは、最も自由と民主主義があるはずの国で、合法的に独裁への道が拓かれていくということ。権力が暴走することの怖さが伝わってきます。

 

コメディタッチで描かれていることで、若干、口当たりがよくなってはいますが、それでも、あまりにしょうもない人々が世界を動かし、その結果として、無辜の人々が生活を奪われている現実に暗澹たるものを覚えます。

 

こうして見ると、あまりに滅茶苦茶な現状に恐ろしさを感じられますが、それでも、こうした作品が作られ、公開されるということが、アメリカ社会の健全さが完全には潰されていないことを証明しているようで、そこに一縷の希望が感じられました。せめて、その最低限の言論の自由を維持して欲しいものです。

 

それに引き換え日本は、あまりに忖度の力が強く働き過ぎているような...。イラク戦争の時、イギリスとともに、アメリカの"大嘘"にいち早く乗ったのは日本だったのですから、そのことをきちんと検証する責任を負うべき立場なのですが...。

 

気持ちよく観られる作品ではありませんが、観ておきたい作品だと思います。