映画『聲の形』DVD 映画『聲の形』DVD
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大今良時の同名漫画を映画化した作品。原作は未読です。

 

ガキ大将の小学校6年生、石田将也は、転校してきた聴覚に障害がある西宮硝子に興味を惹かれます。しかし、硝子とのある出来事のために将也は孤立し、心を閉ざします。5年後、高校生になった将也は、硝子のもとを訪れ...。

 

硝子と将也。自己評価が低くいつも罪悪感を抱えていたり誰かに謝ったりしています。

 

川井さんのキャラクターも効いています。多分、彼女は嘘つきなのではなく、自分のなりたい"善い人"として皆の中に存在したくて都合よく記憶を塗り替えているだけ。とても自然に自分を美しくイメージできる人で、その場その場では彼女にとっての真実を言っているのでしょう。

 

植野さんは、自分の正しさを貫こうとする正義の人。そもそものイジメのきっかけを作っておきながら、きちんと反省したり謝ったりはしていないけれど、彼女の事実の捉え方には真実を突いている部分があります。それで彼女の行為が正当化できるとも思いませんが、やたらと謝る硝子に苛立つ気持ちも分かります。植野さんは、イジメが始まった元凶でもありますが、最初はかなり積極的に硝子を手助けしていました。傍観者でなく積極的に関わろうとしたからこその硝子に対する苛立ちがあったのでしょう。彼女なりに周囲を"良い方向"に変えていきたいという想いの強さが不器用さに繋がってしまったのかもしれません。

 

そして、植野さんは硝子を「テメーの頭ン中でしか物事を考えられないやつ」だと非難しますが、それは、植野さんも同じ。その結果として周囲にその原因を見出して周囲を非難するか、自責の念に駆られて周囲に誤るか、表面に出てくる行動は逆ですが、似た者同士でもあるのです。植野さんの硝子に対する感情には"同族嫌悪"的な面もあるのでしょう。

 

小学生時代の硝子に対するイジメの場面など、かなりシビアで、観ていて辛くなるレベルだったりします。イジメの部分や硝子に聴覚障害があることのインパクトが強く、その部分が目立ってしまった感じもありますが、それがメインテーマというよりも、コミュニケーションを取りたくても取れない人々の物語なのでしょう。

 

将也の硝子への贖罪、硝子の将也への贖罪というよりも、将也が彼自身を、硝子が彼女自身を許し、受け入れるまでの物語なのだろうと思います。

 

完全なる悪意がなくても、むしろ善意に溢れればこそ酷い状況が生まれることがあり、善意や正義感が人を追い詰めることもあるけれど、悲劇の後にも人は再生し立ち上がることができるということなのかもしれません。

 

コミュニケーションを取ろうとすれば軋轢が生じることもあれば、傷つけあい、時には大きな後遺症がもたらされることもあるけれど、それでも、コミュニケーションを取ろうとすることでしか人は救われないのかもしれません。

 

そして、人はそう簡単に変われるものではないけれど、それでも、関係を良くすることはできるということ。そこに希望があるように思えました。

 

なかなかの傑作だと思います。是非、観ておきたい作品。お勧めです。

 

原作も読んでみたいと思います。