ベテランCIA諜報員ミュアーは退官する日、香港米国大使館職員のハリーから、ミュアーが1975年、ベトナム戦争の最中にその才能を見出し諜報員として育てたビショップがトラブルに巻き込まれてことを知らされます。中国、蘇州刑務所に投獄され拷問を受けているとのこと。けれど、投獄の原因となったビショップの行動が彼の私的な理由によるものだったこともあり、アメリカ政府はビショップを見捨てることを決定。ミュアーはビショップを救おうと...。

 

現在のビショップの危機と上司に隠れて彼を救出しようとするミュアーの物語、そして、過去のビショップを見出し、CIAにスカウトし、諜報員として育て上げ、その後、気持ちが離れていった過程を描く物語、その2つの物語が柱となり、交互に2つのエピソードを組み合わせて描いていて、最初はちょっと分かりにくいのですが、徐々に、全貌が明らかにされていき、いろいろなことが繋がっていくところは、悪くはなかったのですが、。

 

現在の物語は、サスペンス、過去の物語はヒューマンドラマ的な味わいが強く感じられました。組織の理屈と人と人の個人的な繫がりのどちらを優先させるか。スパイとしての判断としては、ビショップを見捨てるというのが正解なのでしょう。けれど、自身が見出し育てたビショップへは特別な感情があったことでしょうし、ビショップの行動を誘発する原因を作ってしまったことへの後悔もあったのでしょう。そして、ミュアーももうスパイではない。自分を救出した作戦の名称を聞き、誰がその首謀者だったかを知った時のビショップの表情。そこに2人の繫がりが現れていて、本作でも最も印象的な場面となていました。

 

派手に撃ち合ったり、アクロバチックな追いかけっこをしたりというワケでもなく、脳神経を駆使させるタイプの戦い。タイムリミットが迫り、現場に直接行けるわけでもなく、限られた時間と場所の中から、周囲を欺きながら状況を動かしていくミュアーの戦いにドキドキさせられました。

 

何といっても、ミュアーを演じたロバート・レッドフォードは冷徹非常なスパイという一面を持ちつつも心の奥底に温かいものを秘めた渋い魅力を醸し出していて印象的でしたし、ビショップを演じたブラッド・ピットは文句なくカッコ良かったし、テンポも良く、それなりに楽しめました。

 

ただ、それでもモヤモヤ感が残ってしまうのは、アメリカの傍若無人な振る舞い。勝手に、他の国に押しかけ、カギとなる人物を暗殺してしまう。そんな横暴なやり方自体に対する疑問は示されません。そうしたことが、当たり前の正義で、そもそも疑問を抱くような問題ではないと感じられる位、アメリカにとって世界は自分たちのものなのかもしれません。

 

映画としては、面白かったと思いますが、どうも、その辺りが引っかかってしまい、素直に楽しむことができませんでした。