43歳独身、空港の荷物係をしている巨漢のフーシは、人付き合いが苦手で女性経験もなく、戦車や兵士の小さなフィギュアを集めてジオラマを作ること、ラジコンを走らせること、金曜日にはタイレストランでパッタイを食べ、ラジオ番組にリクエストすることが楽しみ。そんなフーシを見かねた母親とその恋人は、誕生日祝いにダンススクールのクーポンをプレゼントします。気乗りしないものの強引に背中を押されてスクールに向かったフーシは、小柄な女性シェヴンと出会い...。

どう見ても、ヘンタイチックなフーシ。彼も、そのことを自覚していたのでしょう。だから、決まりきった行動と狭い人間関係の中に閉じこもることで、自身を護っていたのでしょう。彼の心が外に開かれていなかったから、職場での同僚からのいじめも、彼の心を傷つけることはなかったのかもしれません。いじめられても、変質者扱いされても、怒らず、卑屈になることもありません。周囲からの酷い扱いにも性格が曲がることなく真っ直ぐな心根の優しい人に育ったこのは、それだけ、彼の"殻"が強固に固く閉ざされていたのかもしれません。

けれど、判で押したような日々は、シェヴンの登場により、変化していきます。それは喜びでもあり、苦痛でもあり...。普通、このテの物語では、非モテくんが、モテる男になるためにダイエットしたり、お洒落したりという努力をしますし、何だかんだあって2人が結ばれたりするのですが、本作は、そんな期待をアッサリと裏切ってくれます。シェヴンのためにかなり努力はするのですが、それがかなり非凡で印象的です。

シェヴンは、どこか心を病んでいるのでしょう。彼女の背景が描かれず、そのワケの分からなさもあって、フーシが異様に人がよくシェヴンに振り回されるだけの存在のように感じられてしまうのですが、けれど、フーシがシェヴンの仕事を肩代わりする交渉をしに彼女の職場に行った場面を見ると、フーシは彼女の言動を病気によるものと理解している様子。どうにも不安定な様子を見れば、フーシの言うように"うつ"というよりは、"そううつ"なのでしょうけれど...。

ただ、だとすると、フーシのシェヴンへの贈物を彼女は巧く活かせるのかどうか、かなり不安ではあります。安定して店を経営することができるようには思えません。そもそも、夢を実現するために必要な知識があるのかどうかも怪しいところ。そして、フーシが、シェヴンの店の成功を信じていたとも思いにくいような...。

フーシのシェヴンへの贈物とラストの行動。バッドエンドとも受け取れるラストですが、フーシの贈物はシェヴンのためというよりも自分の気持ちに踏ん切りをつけるためのものだったし、ラストの行動は新たな一歩を踏み出すためのものだったのだと解釈しました。フーシの言動を見ていると、彼は、自分がしたことに対しシェヴンが感謝しないかもしれないし、迷惑がるかもしれないことを承知していたように思えてなりません。フーシが、自身に重荷を残さない形でシェヴンとの関係に決着をつけ、初めてのことに挑戦するというラストだったのではないでしょうか。

色々と大変なことはあったにせよ、シェヴンは、フーシにとって、初めて彼の心に寄り添ってくれた母親以外の大人の女性だったことでしょうし、シェヴンのお陰でフーシの世界が広がったことも事実。これまでできなかった体験もできたわけですし...。フーシは、心底、シェヴンに感謝していたし、彼にすれば、その印として相応しい贈物だったのではないでしょうか。

フーシとシェヴンの恋物語かと思いながら観始めたのですが、実際には、フーシが自身の問題と向き合い、新たな可能性を切り開いていく物語なのだと思います。

なかなか面白かったです。一見の価値ありだと思います。

回転寿司が登場したのにはビックリ。アイスランドにもあるんですね。


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