問題を抱える子どもたちのためのグループホーム"ショートターム12"。そこには、心に深い傷を抱えた子どもたちも多く、そこで働くスタッフのグレイスたちは、子どもたちと何とか良い関係を築こうと悪戦苦闘の日々。同僚のメイソンと付き合っていたグレイスは、自分が妊娠していることを知ります。メイソンは、グレイスの妊娠を喜びますが、グレイスの中には迷いが残っている様子。そんなある日、ジェイデン(ケイトリン・デヴァー)という少女が入所してきて、グレイスが彼女を担当することになります。徐々にジェイデンとの関係を築いていったグレイスは、彼女が父親に虐待されていたことに気付き...。

まぁ、この手の施設を舞台にした物語としては在り来たりという感じもします。子どもが健康的に成長するために必要な世話をされず、愛情を得られず、虐げられた子どもたちがどんなに深刻な傷を負うことになるのか、そして、そこから立ち上がることがどんなに困難なことであるか...。けれど、その難しさを理解しつつ、子どもたちが健やかさを取り戻すことを諦めないスタッフたちが、そんな子どもたちを懸命に支えようとしています。

本作で印象的なのは、そのケアする側にいるスタッフの傷にも向き合っていること。

徐々にグレイスのこれまでが明らかになり、彼女もまた、子どもの頃から深い傷を抱えていることが明らかになっていきます。自分自身が傷つけられた子どもだったからこそ、この手の仕事に興味を惹かれるようになった...という面もあるのかもしれませんが、子どもたちの傷を癒すことが、自分自身の傷に向き合い、癒すことに繋がっていきます。

そして、傷を修復するために効果的な手段である"語ること"。作中で、ジェイデンが作ったという"オハナシ"が語られますが、その物語の哀しさに胸を打たれました。その物語を紡いだこと、それをグレイスに語ったことは、ジェイデンの行く末を大きく変えたことでしょう。さらに、グレイスもジェイデンから大きな力を与えられます。グレイスを理解しようと心を砕き、深く愛するメイソンにさえ打ち明けられなかった体験を、グレイスはジェイデンに明かします。同じ経験を共有するからこそ、心を許せたということなのでしょう。そして、この2人の関係性の中で得られた力により、2人ともそれぞれにさらにその外の世界に向かっていくことになります。

人が人を癒すということは、決して、癒す側が癒される側に一方的に恩恵を与える関係になるのではなく、癒される側も癒す側に何らかの力を与えるものなのでしょう。

子どもは親を選ぶことはできません。けれど、そんな子どもが自分の人生を選べるようにすることはできるはず。メイソンの言葉で語られるだけですが、母親から虐待を受け、短期入所型のこの施設で3年間を過ごし、18歳になったために退所したマーカスのその後の物語に希望が示されます。マーカスも、ジェイデンも、グレイスも、きっと、"虐待された可哀そうな子ども"としての人生でなく、自分自身で選択した人生を歩んでいくことになるのでしょう。

施設を出る年齢を迎え、外の世界に出る不安から心の安定を崩す者、時折、パニックを起こす者、自傷行為を止められない者、親から虐待された者、入所者同士の人間関係の難しさ...。想い問題を描きながら、どこか軽やかで明るい空気を纏った作品です。メイソンが、子どもたちとのエピソードをネタとして語る場面がありますが、このメイソンの気負わない軽やかさが、本作の救いとなっているのかもしれません。そのメイソンの力も、とある夫婦の大きな愛によってもたらされたもの。

人は、自分や他人の傷をいやす力を持つことができ、愛を受けて育まれた力は誰かへの愛として伝えられていく。そこに人であることの喜びと希望があるのかもしれません。

ラストで、そんなに簡単に問題が解決されるわけではないことも示されますが、それでも、温かな気持ちで、希望を感じながら観終えることのできる作品になっています。お勧めです。


公式サイト
http://shortterm12.jp/



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