眠れる美女 [DVD]/イザベル・ユペール,トニ・セルヴィッロ,アルバ・ロルヴァケル
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17年間植物状態でいる娘の尊厳死を求める両親に対し、延命処置続行の暫定法案を強行しようとするベルルスコーニ首相。議員のウリアーノは自身の愛妻の延命装置を停止させた過去を持ち、そのことで愛娘との間に溝が生まれていました。彼は法案に賛成するか、反対表明するか決断を迫られていました。また、昏睡状態の娘ローザを抱える伝説の女優の家では、仕事も家事も放棄した放棄した元女優によって毎日執拗に祈りが捧げられています。そして薬物中毒の女ロッサは、自殺未遂を繰り返しているところを、医師のパッリドに出会い、阻止されますが...。

2008年11月、イタリアの司法機関は、17年間昏睡状態にあった女性、エルアーナ・エングラーロの延命装置を停止することを認めます。命は神に授かったものであって人間の自由にしてよいものはないという考え方から自殺を認めないカトリックの信者が多いイタリア社会は、その裁定に激しく反発。当時のベルルスコーニ率いる内閣は真っ向から対立。尊厳死を認めない法案を通そうとします。その問題に着想を得て、3つの物語が描かれた作品です。

ウリアーノの物語、ローザを巡る物語、ロッサの物語、その3つは、互いに交わることなく、関わり合うことなく、バラバラに進んでいきますが、本作が生み出される基となったエルアーナの尊厳死を巡る問題がニュースで流され、作品の軸となっています。どの物語にも人が人の生き死にの問題が出てきます。けれど、尊厳死の是非を問うというよりは、人の死を巡る様々な問題が中心になっているような印象を受けました。

どこまで、人は自分の命を思い通りにできるのかという問題も絡んでくるのかもしれません。例外が多少はあるにしても、本来、命あるものは、必死に生きようとするもの。けれど、特に人間の場合、自ら命を絶つということはままあることです。自殺を禁じている宗教や文化が少なからずあるということは、それなりの圧力を持って制しないと人々の間に蔓延しかねない行為だからなのかもしれません。けれど、一方で、医学の進歩により、"死んではいないけれど何の活動もできず、思考もできない(と考えられる)状態"が何年にもわたってしまい、そこからの回復が見込めないという状況が生まれています。どこまでの状態が生きていると言えるのか、相当に不自然な形であっても最後まで死に対して抵抗をすべきなのか...。生命が維持される道が開かれたことで、今まで人類が体験しなかった新たな問題が生じています。

そんな状況の中、宗教はどこまで役割を果たせるのか、医療はどこまで生命に関与できるのか...。そして、人は、どこまで自分の命を自分のものにできるのか、愛する者の命に対してどこまで関われるのか...。そして、そういった問題には、その問題を取り巻く社会の姿が反映されます。本作は、3つの生命にかかわる物語を描きながら、今のイタリア社会を描いているのかもしれません。

エルアーナの尊厳死を巡る問題も、元々は、愛する娘のために最大限のことをしようとした両親の想いから生まれたもの。けれど、そこに生まれるぶつかり合いが、周囲に伝播していく中で、人々の心の中に波風を立てていきます。生死の問題は、なかなか、他人事として冷静に片付けることができないものなのでしょう。

一見、無力で何もできない"眠り続ける人"の存在に、周囲は掻き乱されます。愛しているから生きていてもらいたい、奇跡的な回復を祈らずにはいられないというのも愛する者としての真実なら、無用な苦しみを味わわせたくない、不自然な生を強要したくないというのも、愛すればこその想い。双方の主張の底に愛があるからこそ、互いに譲れない激しい争いが生まれるのかもしれません。

盛り込み過ぎた感じもしますし、広げ過ぎた感じもします。全体のバランスも良いとは言えません。けれど、そのゴチャゴチャした感じや、明確な収束点を見出しにくい感じは、本作のテーマに見合ったものだったと思います。

自分だったらどうするか、どうして欲しいか、家族だったらどうするか...。簡単に答えを出せない問いが頭の中を駆け巡ります。



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