しわ [DVD]/出演者不明
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スペインの漫画家、パコ・ロカの「皺(しわ)」を映画化した作品。原作は未読です。


長年、銀行の支店長として働いてきたエミリオは、息子夫婦と生活していましたが、認知症の症状が見られるようになり、老人ホームに預けられます。同室のミゲルは、お金にうるさく抜け目がありません。他に入居しているのは、他人の言葉をおうむ返しにする元DJのラモン、息子に迎えに来るよう電話をかけようと右往左往しているソル、面会に来る孫のためにバターや紅茶を貯めている女性アントニアや、アルツハイマーの夫モデストの世話を焼く妻ドローレス、オリエント急行で旅をしていると信じ込んでいるロサリオ、火星人に襲われることを心配しているカルミーニャ、犬好きでホームで禁じられているのに犬を飼いたがっているマルティンといった面々。徐々に、施設の概要を理解するようになったエミリオは、症状の重くなった老人は、2階の部屋に移されることを知ります。ある日、エミリオは、モデストと薬を間違えられたことで、自分もアルツハイマーであることに気づいてしまいます。2階へ送られる日も遠くないと嘆くエミリオのため、ミゲルは...。


ミゲルを始め、老人ホームに暮らす人々の描写がリアルです。いかもにも居そうな人々と、起こりそうな出来事が連ねられ、可笑しさを感じながらも身につまされる部分があったり...。


現実の厳しさを見せつつも、そこに至るまでの懐かしい時間、美しい想い出も見せてくれます。多分、今では良い思い出となっている過去も、その時点では、過酷だったりもしたことでしょう。けれど、苦しみや痛みを時間が洗い流し、輝きを持った時間として刻み込まれるものなのかもしれません。老人たちの"妄想"をリアルに見つめる視点と"妄想"の主から見る視点とで描くことにより、記憶に歪みが生じることの"恩恵"のようなものが感じられます。"青春時代が夢なんて、後からほのぼの想うもの"ってところでしょうか...。


かなり重い内容ですが、ほんわかとしたアニメの絵柄が、その暗さに穏やかさを加えています。実写では、目を背けたくなった題材かもしれません。


決して、目新しい内容ではありませんが、こうした形で老いを真正面から描いたという点で、興味を引かれる作品となっています。


哀しさや切なさに彩られながらも、苦い記憶を捨て去ったからこそ味わえる幸福を感じさせられる場面があったり、年齢を重ねたからこその落ち着きが見られる場面があったり、世代の違う家族とは理解しあえなくても、同じ立場にある老人同士で連帯できる可能性を見せてくれる場面があったりするところに救いや希望が感じられました。


最初は嫌なヤツとしか思えなかったミゲル。他の思考力が衰えてきた老人たちをバカにするような感じだったミゲルも、エミリオに寄り添い、エミリオが残した痕跡を発見することで、エミリオとともに歩むことを決意します。それは、決して、エミリオのために犠牲となる道ではありませんでした。孤独だったミゲルも、エミリオという仲間を得ることで、救われた面はあったのでしょう。


人生を終えるのは楽なことではないけれど、そんなに悲惨なことでも、悪いことばかりでもないし、それなりの輝きも得られるものかもしれない。そんな風に思えてくる作品でした。


原作の漫画は、日本語訳が2011年8月に刊行されているそうです。是非、読んでみたいと思います。