息子とともに馬で砂漠をゆく黒装束のガンマン、エル・トポは、道中、山賊に襲われます。彼らの仲間が襲った町に向かい、そこで、住民たちを次々に嬲り殺す山賊のボスを倒し、そのボスの愛人を連れ、息子を捨てて再び旅に出ます。エル・トポは、「一番強い男が好き」という彼女の心を得るため、砂漠に住む4人の銃の達人と対決することになりますが、まともに戦って勝てる相手ではありません。彼女に言われるまま、卑劣な手を使い、4人を殺します。けれど、自分の行いに虚しさを感じるようになります。やがて、彼女に裏切られたエル・トポは、瀕死の重傷を負い、フリークスたちに助けられ...。


一応、ストーリーらしきものはありますが、ストーリーを表現することに力が注がれた作品ではありません。不条理というのか、何というのか...。


とにかく、次々と人が死んでいきます。ほとんどすべて、誰かに殺されます。奪うために、正義のために、愛のために、怒りのために、恐れのために、恨みのために、その存在が不要となったために...。そして、夥しい血が流れます。この血が実にチープというか、どこからどう見ても作り物で、嘘っぽいのですが、その人工的することになります。な赤が、空の青さ、砂漠の砂の色に良く映えて印象的でした。


そして、このフェイク感が、人の死の軽さを強調しているようでもありました。現代の私たちにとって、人の命というのは何より優先して守るべきだと信じられている重いもの。けれど、人の命が重いというのは、人間にとって普遍的な価値観ではなかったのかもしれません。そう、かなり、長い間にわたって、人間は簡単に死んだし、今でも地球上の多くの場所で人の命は軽く扱われているのです。


章立てになっていて、「創世記」「預言者」「詩篇」「黙示録」となっていますので、背景に聖書とかキリスト教があるのでしょう。男を唆す女とか、苦い水を甘い水に変えるとか、ハチミツとか、キリスト教の世界を思わせるようなものが登場します。一方、砂漠の銃の達人とか、輪廻転生を思わせる場面に見られるような仏教的というか、東洋的な思想も見えてきます。そして、キリスト教的思想が、汚い手段を弄して東洋的思想を押し潰した(?)ようにも思える部分は、むしろ、キリスト教への批判でしょうか?いずれにしても、その辺りが、本作に宗教的な味わいを加えているのでしょう。


ただ、本作は、解釈を考えたり、意味を見つけようとしたり、というところに必死になるべき作品ではないのかもしれません。あまり、あれこれ考えず、作品の醸し出す空気の中に身を任せ、その雰囲気を感じ、味わう作品なのかもしれません。


決して、観ていて気持ちの良い作品ではありませんが、心に刺さる強烈な印象があり、目を離せない力が感じられる作品です。


こうした作品が、ただ独善的なだけのオレ様作品になってしまうか、多くの人から料金を取るエンターテイメント作品として成立するかは、どこか、人の心の奥底を動かすものがあるかどうかで分かれるのかもしれません。そういう意味では、本作は、ギリギリ、エンターテイメントとして成立しているのではないかと思いますが、好き嫌いは大きく分かれる作品ではあるだろうと思います。


それにしても、他には、なかなかない独特な作品であることは確か。一度は観ておきたい作品だと思います。それも、できるなら、映画館のスクリーンで。



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エル・トポ〈製作40周年デジタルリマスター版〉@ぴあ映画生活