各界セレブたちの肖像写真で有名な写真家、アニー・リーボヴィッツについて、写真家としての軌跡だけでなく、プライベートな部分にも踏み込んで描いたドキュメンタリー作品です。


ヴォーグ誌の依頼で、マリー・アントワネットの衣装を着けたキルスティン・ダンストの写真を撮るアニー・リーボヴィッツ。彼女は、今や、世界一の肖像写真家と評され、彼女が写真を撮るとなれば、どんなセレブでも喜んで即座に応じるとまで言われています。そんなリーボヴィッツの写真家人生は、1970年にローリング・ストーン誌の写真を撮ることから始まりました。ミュージシャンたちの素顔を収め、話題を呼ぶようになります。やがて、ヴァニティ・フェア誌に移籍し、より、メッセージ性の強い写真を撮るようになり...。


「写真は人間の魂を吸い取る。」ずっと昔、そんな迷信がありました。それは、全くの迷信だとしても、写真が、時として、写真が人間の魂を写し取ることはあるようです。


一枚の写真が、被写体となった人の人生のある瞬間を切り取り、そこに、その人自身の内面まで映し出す。リーボヴィッツの写真は、被写体について雄弁に語りかけてきます。ジョン・レノンの死の数時間前に撮影されたというオノ・ヨーコに裸のジョン・レノンが抱きついている写真、物議を巻き起こした妊娠中のデミ・ムーアのヌード写真、バラの花に埋もれたベッット・ミドラー、牛乳風呂に浸かったウーピー・ゴールドバーグ...一度観たら脳裏に刻まれるような写真ばかりです。


セレブたちが何故、リーボヴィッツに写真を撮られることを望んだのか。彼らがリーボヴィッツの写真に、彼ら自身も気付かなかった一面を見せてくれるからなのかもしれません。リーボヴィッツに身を委ねることで新たな自分を発見できるかもしれない、そうした期待が彼らをリーボヴィッツの元に走らせるのではないでしょうか。彼女の作品を観る者にも、彼女に写真を撮られる者にも、そうした期待を抱かせる、そこに、リーボヴィッツの才能があるのかもしれません。


一つの道を究めることの苦しさ、切なさと幸福が描かれています。大切な人の死に際にあっても、写真を撮ることをやめない。何があっても写真を撮る、取らざるを得ない。それこそ、リーボヴィッツが写真一筋に生きてきたことの、そして、"写真の神様"に魅入られていることの証左なのでしょう。それこそが、"天才"写真家の生き様なのでしょう。


「死ぬまで写真を撮り続けたい」という言葉。これは、リーボヴィッツ自身の写真家としての自負と自分に与えられた才能に対する責任への自覚が感じられます。そこに道を究めた者の業のようなものを感じました。何かに突出した才能を持っていることの厳しさ、そして、人生の全てをかけられるほどの対象と巡り合え、そこのとで認められたことの幸福がその言葉は感じられます。


リーボヴィッツの写真家としての軌跡と一人の人間としての生き方がテンポ良く描かれています。リーボヴィッツの作品も沢山紹介されていて、リーボヴィッツの世界を満喫することができます。ポイントの絞り方も上手く、要所要所は深く掘り下げており、リーボヴィッツに関して知っていても何も知らなくても楽しめる作りになっています。ところどころ、もう少し時間をとって突っ込んで欲しい部分も無きにしも非ずではありましたが、全体としてバランスが良く、時間的にもほどほどの長さに纏まっていたと思います。


本作で取り上げられているリーボヴィッツその人の魅力もありますが、一つの映画作品としてもなかなか完成度の高いものになっているといえるのではないでしょうか。


お勧めの一本です。



アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生@映画生活