なぜ店内のBGMならヒップホップが許されるのだろうか | 田舎にいたごく普通の少年が、ヒップホップをレペゼンした日

田舎にいたごく普通の少年が、ヒップホップをレペゼンした日

ヒップホップ漬けの日々を書きながら、ヒップホップ初心者に向けて、もっとヒップホップを楽しむためのブログ。ヒップホップの奥深さはマリアナ海溝級!それまでの歴史や経緯を知ると、もっともっと楽しくなるんです!

外で仕事をすることの多い私ですが、

お店に入ると必ずどんな音楽が流れているかを聞きます。
 
それは単純に音楽が好きだからに他ならないのですが、そんなときによく思うのが、
 
なんでヒップホップ聞いている人はこんなに少ないのに、お店のBGMとなるとこれだけヒップホップがかかるの?
 
ということです。
 
たとえば以前も触れたnujabesをはじめとするjazzy hiphopなんかはおしゃれな洋服屋さんとか飲食店、カフェなんかでは本当によく耳にします。
 
 
そうじゃないとしてもkick the can crewRIP SLYMEなど一般層にも人気のあったグループを筆頭に、最近のヒップホップまでよく耳にします。
 
でも、なぜかヒップホップ好きで、いつもヒップホップを聞いています〜という人はなかなかいないんですよね。
 
お店では流すけど、聞くことはない。
反対に表現するなら、
聞くことはないのに、お店では流そうとする。
 
この違いっていったいなんなのでしょうか。それを考えてみたいと思います。
 
その要因は次の5つが考えられるのではないかと推察しました。
 
①歌詞が耳に入らないBGMとしての機能性
②mixという文化
③ヒップホップへの偏見
④「リアル(現実)」には向き合いたくない
⑤ヒップホップがやはり体や心、魂を揺さぶるから
 
ではこれに沿って解説していきましょう。
 
 

①歌詞が耳に入らないBGMとしての機能性

ヒップホップの場合、
それに造形がない人にとっては、
ラップは耳に入ってきません。
 
その点、JーPOPに比べて、
文字が頭に入ってきにくく
BGMとしての機能を果たしやすいという
効果があります。
 
でも、洋楽よりは、
人気の曲もあったり、
日本語だったりするので、
親しみを感じる。
 
そういった点で、
店内のBGMとして重宝していたりするのでしょう。
 
だけど、それは裏を返せば、
みんながヒップホップを知らないからこそ、
BGMになるということですね。
 
 

②mixという文化

ヒップホップにはJーPOPとは異なる
「MIX」という文化があります。
 
よくDJの方がCDをリリースされているけど、
そのCDはだいたいMIXCDになります。
その特徴は曲と曲の間に生じる「空白がない」ことです。
 
普通のアルバムだと、1曲が終わるごとに一度途切れて次の曲に行きますよね。数秒の空白が生じます。しかしMIXCDの場合は途切れることなく、曲と曲をうまくつなぎあわせて「空白」を生じさせません。
 
この、曲と曲をどのように繋げるのか、それがDJの腕の見せ所でもあり、個性を見せる場面でもあります。
 
では、なぜそれがBGMにとっていいのかというと、もし通常のアルバムだとお店のBGMに4〜5分おきに数秒の空白が存在してしまうことになります。
 
すると、それだけでなんとなく勢いやお店の雰囲気がちょっと止まってしまう。でも、「空白」がなければ、つねに、いつお店に入ったとしても同じテイストを演出し続けることができるわけです。
 
一人のDJの感性で一つ一つの曲を、「大きな一曲」として感性させることで、演出の統一感もあります。
 
カフェや服のショップなど、雰囲気やコンセプトを大切にしているようなお店では、BGMはその演出を支える重要な要素となってきますよね。
 
そのため、お店のテーマをなるべく後押ししてくれるMIX音楽として、ヒップホップが重宝されるのでしょう。
 
 
 

③ヒップホップへの偏見

まだまだ私たちは、ヒップホップは「不良の音楽」のようにとらえている人がたくさんいます。
 
店内で聞いているぶんには、洋楽のように気にならない音楽だとしても、家のなかで「不良の音楽」を聞くわけにはいかない、と感じる人がいるのが現状です。
 
たとえば車からヒップホップが流れているのが聞こえることがありますが、多くの人はドライバーにちょっと恐怖感を抱くのではないでしょうか。
 
気の弱い、優しい人がドライバーだとはきっと思わないのではないでしょうか。
 
ヒップホップを聞いているというだけで、なぜか「気の弱い、心優しい人が聞いている」というイメージがなくなるんです!
 
もちろん、ヒップホップファンはさまざまです。音楽とリスナーの性格はまったく関係ありません。ロック好きに優しい人はいない、と言っているのと同じですね。
 
だけど現状、たとえば学生のときに家でヒップホップを聞いたら、「こんな音楽やめなさい!」と親に怒鳴られたという人はたくさんいるんですよね。
 
BGMとしての利用は広まっているなか、そういった「偏見」はなかなか意識から抜けることはなく、個人的なリスナーを増やすことにはつながっていないのでしょう。
 
 
 

④リアル(現実)には向き合いたくない

 
ヒップホップというのは、一言でいうと、「リアルを綴った音楽」といえます。
 
リアルじゃなければヒップホップじゃない!
 
なんて言葉もありますが、ヒップホップはとにかくリアル(現実)であることが重要です。リアルな現実を歌詞に込めて、ラッパーはそれぞれ歌うんです。
 
しかし、もちろん現実を載せた歌詞は、リスナーの心にダイレクトにメッセージを訴えかけます。甘い言葉はかけてくれません。だからこそ、すごく背中を押されることもあるし、現実をつきつけられることもあります。
 
たとえるならば闘病記のようなものかもしれません。そこには、闘病を経験した人の、極めてリアルな苦しい日常と、どうしようもない現状が描かれています。一方で、それを乗り越えるための力強いメッセージも込められている。
 
その内容は、「いま」苦しんでいる人には、どうしようもない現状が目に映り、苦しみを増すものかもしれない。でも、もしかしたらその現状を受け止めて、前を向けるかもしれない。
 
ヒップホップもそういうリアルをとことん書いた音楽です。
 
だから、音楽に「夢」や「理想」を求めるような人は、ヒップホップが合いません。その最たる例が「恋愛」でしょうね。日本では恋愛ソングがいつの時代も主流としてありますが、J−POPの多くが「リアル」とは言えない、夢や理想の恋愛やきれいな恋愛が描かれています。
 
ヒップホップ好きはむしろ、そういったものを求めない。現実を見ることで、より大きなエネルギーを得るんですね。ここの違いが、ヒップホップが普及しきらない理由としてあるように思います。
 
 
 

⑤ヒップホップがやはり体や心、魂を揺さぶるから

一般的にはまだまだ嫌悪感を抱かれることすらあるヒップホップ。でも、BGMで使われる理由として最後にお伝えしたいのは、ヒップホップという音楽がやはり「人間への根源的な訴求力」を持っているから、ということです。
 
ヒップホップは私たちの心にダイレクトに語りかけてきます。
 
少なくとも、ヒップホップ好きの人たちには、ヒップホップを聞くと身体が自然と揺れる、という人がたくさんいます。私はヒップホップダンスもしているのでなおさらです。
 
今では学校教育にもヒップホップダンスは導入されているので、ますますヒップホップと身体がリンクする人が増えてくるのではないでしょうか。
 
ヒップホップの特徴はなんといってもトラックに刻まれる一定リズムの重低音とスクラッチです。この重低音はまるで心臓の鼓動を司るように私たちの心の奥深くまで響き、その波長は身体を揺り動かすようです。
 
そして明確に繰り返される一定のビートは、まるでセロトニンを放出してくれるかのように、私たちに心地よさを与えます。でも、単に心地よさを生むだけではありません。そこに「スクラッチ」があるからです。
 
DJが奏でるスクラッチというのは、その一定のリズムキープをいったん壊して、「変化」や「不協和」をもたらします。そのポイントにあわせて、それぞれが好き好きに音の乗り方を楽しめるというわけです。
 
本来、人は身体を動かすのを心地よく感じるようにできています。運動したあとにかく汗が気持ちいいのも、そのためと言われています。
 
破壊と再生が好きなのは、赤ちゃんが積み木を壊したり組み立てたりするのと同じです。それと同様に、スクラッチでそれまでの一定リズムを一度「壊し」て、またもとのリズムに戻っていく。
 
そんな快感を楽しむことができます。
 
音楽で快感を楽しむことができるということは、そのお店にいることが楽しい、と感じるということでもあります。それはつまり、商品や居心地に対しての満足度を高め、購入意欲を高めることにもつながります。
 
そういう意味ではちゃんとデータを取ることができたら、心理学的にも、ヒップホップをBGMに使用することは効果的だと言えるかもしれませんね。
 
 

まとめ

 
以上、ヒップホップがなかなか普及しないながらも、BGMとしてはよく耳にするようになってきている理由を考察してみました。もしお店を持っている方は、一度ヒップホップを試されてはどうでしょうか。
 
MIXCDをかけるという手もあるので、経費的にも安く済むかもしれませんよ。
 
また、お店のBGMだけではなく運動中などに聞くのもいいかもしれませんね。私もランニングするときは、そのペースに合わせたヒップホップ音楽が頭のなかで流れていますので!