質問を頂きました。

(このブログに頂いた質問やコメントは、同じような疑問や感想をお持ちの方のために公開しています。)

 

 

骨皮質が薄いときはセメントステムを使ってもらうといいと聞きました.

ただ問題は最近セメントレスステムを使うドクターが多く,セメントステムを使えるドクターが少ないことらしいです.

セメントステムだと緩むことも少ないと思います.

病院やお医者さん選びの参考にでもなれば.先生,まちがっていたらすみません.

 

 

 

質問ありがとうございます。

 

結論としては、必要に応じて骨セメントを使用して良いと思います。

 

ただし、単純に

「骨皮質が薄いから、セメントを使用する」

という選択は私はしません。

 

私が人工股関節を執刀させて頂けるようになって、25年経ちますが、

骨皮質が薄いせいで、セメントレスステムが緩んで、再置換になった患者さんはいません。

 

(私が幸運なだけかも知れませんが・・・。)

 

セメントレスステムの表面加工の進歩は、素晴らしいものがあります。

 

ちなみに

「セメントステムを使ったら緩まない」

ということは絶対にないです。

 

きちんとしたセメントテクニックを用いなければ、良好な成績は難しいと思います。

 

 

ところで、

いつも(特に学会場で)思うのですが、

「セメント派の先生は、だいたい言い方が強い」

「どんな議論でも、セメントの方が優れているという結論に誘導しがち」

と感じます。

 

現在、国内の人工股関節全置換術は、

骨セメントを使用しない「セメントレス」が8割、

骨セメントを使用する「セメント使用」が2割

らしいです。

 

(この前まで、セメントレス派は7割と聞いていたのに、また増えています・・・)

 

 

なので、自分たちの立場を確保するために、強めの意見になると思うのですが、

 

私が、骨セメントをできるだけ使用したくない理由は、

血圧の急激な低下や死亡例があるからです。

 

私が研修医の頃は、まだセメントレスステムの成績が確立されておらず、

確かに、私の先輩方も骨セメントを使用されていました。

 

ただ、一番の問題は、術中に血圧が急激に下がることでした。

 

「骨セメントを使うと、なぜ血圧が下がるのか?」

色々な理由が挙げられていますが、

「解決した」

という話を未だ聞きません。

 

セメント派の先生は、

「きちんとしたテクニックを使えば大丈夫」

的なことを言われますが・・・。

 

少し古い資料ですが、厚生労働省によると、

平成13年からの4年間で、骨セメント使用によると思われる、

死亡を含む重篤症例が37件報告されています。

 

(報告されていない症例もあるはずなので、最低でも37例、ということになります。)

 

例えば、

平成16年は83800個販売されて、12件が報告されています。

 

0.014%ですね。

 

s0112-5f.pdf (mhlw.go.jp)

<96B391E8> (wam.go.jp)

 

仮に、

「本当に、骨セメントを使用する人工股関節の方が優れている」

「国内の人工股関節術の全症例に骨セメントを使用しましょう」

となったとして、

 

最近の国内の、1年間の人工股関節の手術件数は7万件とされているので、

X(かける)70000

すると、

0.014 x 70000 =0.98

 

つまり、毎年、人工股関節の手術を受けた患者さんのうち、誰か1人が、

骨セメントが原因で亡くなることになります。

 

さすがに看過できません・・・。

 

セメント派の先生方は、非常にたくさんの利点、優れた点を言われます。

その通りかもしれません。

(その点に関してだけ言えば、きっと、その通りなんだと思います。)

 

ただし、骨セメント使用によって急激な血圧低下などが生じ、死亡例が起きているのは事実です。

 

日本で、セメント人工股関節で有名な、Charnley(チャンレー)式が導入されたのが、昭和52年(1977年)頃、(京都大学では昭和45年)らしいですが、50年近くが経過しています。

 

人工股関節の歴史 | 人工関節センターの主な疾患と治療方法 | 江戸川病院 (edogawa.or.jp)

 

ja (jst.go.jp)

 

日本の科学力、技術力は凄いのですから、

50年間、本気で研究に取り組んでいたら、

もう改善、改良してあるはず、

もしくは骨セメントに代わるものが発見されているはず、

と思ってしまいます。

 

KAKEN — 研究課題をさがす | インプラント固定に耐え得る新しい生体活性骨セメントの開発 (KAKENHI-PROJECT-15591574) (nii.ac.jp)

 

セメント派の先生は、まず、人体に無害の骨セメントを発明するべきだと思います。

 

そうすれば、セメントを使用する先生もまた増えると思います。

(私も使います。)

 

 

私のこの文章を見ると、過剰に攻撃してくる先生方がおられると思いますが、

私は骨セメントの使用を否定している訳ではありません。

 

 

骨セメントを使用した方が、低侵襲で済む患者さんがおられるのは事実なので、

立場にこだわらず、患者さん側の立場に立って対応した方が良いと思っています。

 

PowerPoint プレゼンテーション (hospi.sakura.ne.jp)

 

 

以上です。

少しでも参考になれば幸いです。