以前、質問で人工股関節の再置換術の話をしました。
その時、再置換術には程度があって、
① 「ボール」と「ライナー」を入れ替えるだけ、
② 「臼蓋カップ」と「ボール」と「ライナー」を入れ替える、
③ 「大腿骨ステム」と「ボール」と「ライナー」を入れ替える、
④ 全部(臼蓋カップと大腿骨ステム、ボール、ライナー)を入れ替える、
という段階があることを話しました。
そして、
「ライナーとボールを取り替えるだけの段階が、侵襲も少なくて一番良い。」
「つまり、ライナーが摩耗しているけど、人工関節が緩んでいない状態で手術した方が良い。」
「でも、この時はほとんど症状はない。」
「なので、1,2年おきに定期的に外来受診をして、レントゲンを撮った方が良い。」
という話をしました。
この回答をした後で思い出したのですが、
「ライナーとボールを取り替えるだけで良い」
はずなのに、できないことがあります。
それが、患者さんに使われている機種が製造停止・販売中止になっている場合です。
一般に
「ボール」は「大腿骨ステム」に合わせて製造されていて、
「ライナー」は「臼蓋カップ」に合わせて製造されています。
つまり、使用されている人工関節が製造停止になっている場合、
① ボールを取り替えるだけで良いのに、(緩んでいない)ステムを抜去する必要が生じる。
② ライナーを取り替えるだけで良いのに、(緩んでいない)臼蓋カップを抜去する必要が生じる。
ということになります。
例えばですが、
自動車でも、家電でも、
「ずーっと長年使っていて、故障してしまった。」
→「修理したいけど、もう製造してないので部品がない。」
→「仕方ない。新しいのに買い替えよう。」
というのはわかりますよね?
納得がいくと思います。
人工股関節で例えるなら、
「何十年も前に受けた人工関節が製造中止になっている」
ということで、多少は納得がいくと思います。
(それだけ、人工関節が長持ちしたとも考えられるので・・・)
ところが
「10年前に受けた人工関節が製造中止になっている。」
なので、
「本当は部品の交換だけでいいはずのに、ステムやカップまで取り替えないといけない」
は、絶対納得いかないですよね?
緩んでいない人工関節を抜去するのは、手術時間も長く、出血、感染のリスクも高いです。
無理すると術中骨折を起こします。
という理由から、
「人工関節周囲の骨が摩耗粉で融解して、更に緩みが進んで、取りやすくなるのを待とう。」
という展開になりがちです。
実はこのパターン、けっこう多いです。
教授や、権力のある偉い先生が、
「新しい、革新的な人工関節を開発した」
と、大々的に宣伝したけど、
後に不都合がわかって、
みんな使用しなくなって、
結局、製造中止という・・・。
(具体名は出しません・・・。)
「ゴッドハンド」とか、「名医」とか言われている先生方も、新しい機種を出しがちです。
なので、
「有名な先生に執刀してもらったから安心」
という訳ではありません。
昔の話ですが、
「とある大学の教授が考案したけど、数十人にしか使われなかった」
という人工関節の再置換術をしたことがあります。
再置換して、抜去した、不思議なデザインの人工関節を見ながら、
「誰も止められなかったんだろうな。」
と後輩と話した記憶があります。
ということで、最新の機種よりも、何年も前からある、成績の安定した機種を使ってもらうことをお勧めします。
「新しく開発した最新の機種を使いますね。」
と言われても素直には喜べません・・。
(前に話したように、なかなか機種についての説明はないと思いますが・・・。)
私が、新しい機種が登場しても、すぐに使わない理由の1つはこれです。
以上です。
少しでもお役に立てれば幸いです。
(この投稿が削除された時は、誰かに物凄く怒られたか、何らかの圧力がかかったと思って下さい。)