頼清徳総統の柔軟性
台湾の頼清徳総統は非常に柔軟な方だなあと思える報道がありました。
内閣の一員として、台湾在住の日本人を採用したからです。
少し前に総統候補だった柯文哲が逮捕されましたが、これは、今までの経緯を見ているとそうだろうなという感じがする事件でした。ニューヒーローとして、最初に台北市長だったころは誠実そうで輝いていましたし、私は尊敬していました。ご両親が立派な方ですね。しかしだんだん、世俗化し、中国寄りとなり、すこしずつ堕落していったように思えます。
頼清徳総統はいつも清新なイメージがあり、期待しているのですが、今回の日本人起用はよいアイデアであろうと思います。
野崎孝男氏という方を全く知らないのですが、オードリー・タンのような良い仕事をしてくれればいいと願っています。
報道を引用します。
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台湾、内閣顧問に在住邦人 台南の野崎氏、異例の任命
9/6(金) 18:19配信 共同通信
【台北共同】台湾行政院(内閣)は、南部・台南市在住で同市の城市(都市)外交顧問を務める野崎孝男氏(50)を政務顧問に任命した。任命証書が6日までに野崎氏に届いた。行政院によると、ここ数年で政務顧問に外国人を選んだ例は確認できないといい、日本人が就くのは異例。
野崎氏は任命について「台湾の新政権が対日関係を重視している表れではないか。日台関係の発展に貢献できるよう努力したい」と話している。
野崎氏は東京都練馬区出身で、同区議を務めた後、07年に訪台。
頼清徳総統が台南市長だった16年に同市顧問に就任。台湾政府内で移民政策に関わる委員でもある。
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総統候補だった柯文哲逮捕の衝撃! 台湾政界でいま何が起こっているのか
9/3(火) 17:05配信 現代ビジネス
台湾政界に激震
台風10号の猛威がようやく弱まってきた8月31日土曜日の早朝、衝撃的なニュースが台湾から入ってきた。柯文哲(か・ぶんてつ)民衆党主席、前台北市長(65歳)が逮捕されたのである。「台湾のニューヒーロー」ともてはやされた大物政治家の、いともあっけない末路だった。
何より柯文哲主席は、今年1月まで、台湾総統(大統領)選挙を、現在の頼清徳(らい・せいとく)総統と戦っていたのだ。総統選挙には敗れてしまったが、かなりの善戦だった(得票数は頼氏558万票、柯氏369万票)。敗戦後も、4年後に捲土重来を期す意欲満々だった。
加えて、同日(1月13日)に行われた立法委員(国会議員)選挙では、8議席を獲得。全113議席中、野党第1党の国民党が52議席、与党の民進党が51議席で、堂々と野党第2党に食い込んだのだ。しかも、過半数57議席のキャスティングボードを民衆党が握ったため、「実際の立法院長(国会議長)は柯文哲」と囁かれるほどだった。
ところが、「成者王侯、敗者寇」(勝てば官軍、負ければ匪賊)とはよく言ったものだ。5月20日に民進党の頼清徳新政権が出帆してからは、民衆党と同党を半ば独裁的に率いる柯文哲主席は、凋落の一途を辿っていった。
7月26日、主要都市の省長として唯一、民衆党が獲得していた「半導体の都」新竹市の高虹安(こう・こうあん)市長が、同市の汚職に絡んで、7年4ヵ月及び公民権4年剥奪の実刑判決を受けた。これにより、「最年少美人市長」と2022年の当選時にもてはやされた高氏は、離党を余儀なくされた。
ちなみに高氏は、8月21日には博士論文の「パクリ認定」まで裁判所から受け、禁錮10カ月が追加されている。高市長に関しては、私が昨秋、半導体関連の取材で新竹を訪れた時にも、取材した市の関係者から、「半導体もよいが、市の財政をアホな彼氏に貢いでいる高市長のことを書いてほしい」と言われたほどだった。
次々と明らかになる「汚点」
続いて、8月6日には、先の総統選挙において、政治資金の会計報告で民衆党に計1817万台湾元(約8300万円)もの虚偽記載があったことが発覚。柯文哲主席は謝罪に追い込まれた。
8月27日には、4300万台湾元(約2億円)の選挙用の補助金を、個人名義のオフィス開設費用に使用していたことも、メディアに暴露された。おそらく柯文哲主席にとっては、2019年に自分が創設した民衆党は、「公器」というより「オレの所有物」という意識なのではないか。
そして「本丸」と言える「京華城案件」である。台北駅から4kmほど東へ行った一角に、2001年に「京華城」(Core Pacific City)という大型ショッピングモールがオープンした。八徳路四段の大通りに面し、延べ床面積は東京ドームの4.3倍もある。私もモール内のレストランで食事したことがあるが、地元の若者たちで賑わっていた。
そんな「京華城」を、オープンから約20年を経て建て替えることになり、2019年11月に、いったん閉店した。
「京華城」の容積率は、法的には392%だったが、560%に増加されていた。これは、30%分を台北市のために使用するという条件で認可されたものだった。
それが、2020年の再建計画で、突然、840%まで「特別認可」された。当時の台北市長だった柯文哲主席の「鶴の一声」で決まったのではないかという疑惑が、巻き起こっているのだ。
事ここに及んで、8月29日、柯文哲主席を始めとする民衆党幹部たちが一堂に雁首(がんくび)を揃えて、記者会見を行った。大勢の記者たちを前に、冒頭、柯文哲主席の一の子分の女性で、台北市長時代に副市長だった黄珊珊(こう・さんさん)立法委員(国会議員)が、神妙な顔つきで釈明した。
「2週間にわたって精査した結果、選挙本部に、非常に多くの未提出の報告が残っていることを発見しました。支出の漏れは210件、計1623万9963元、支出の略式報告は130件、計313万5446元。合計すると、1937万5409元(約8900万円)でした。
これらの支出は、すべて選挙の業務として実際に支出したもので、不要な虚偽報告はありません。調査の結果、金額も合致し、賄賂性のものはないため、監察院に補正を提出し、虚偽報告の撤回をします」
初めて目にした「弱気の柯主席」
続いて、柯文哲主席が語り出した。
「2024年の総統選挙における政治献金の報告についての騒乱、そしてその後に起こった一連の事件。それらによって私と民衆党に対する声望、印象に泥を塗り、特に支持者に失望を与えたことに対して、私はここに謝罪したい」
そう言って、柯主席は3度、頭を下げた。一斉にフラッシュが焚かれる。
こんなに神妙な姿の柯文哲主席を初めて見た。いつでも自信満々で、「オレは何でも分かっている」とばかりに上から目線で講釈するのが「柯文哲スタイル」だったからだ。柯主席は、続けて滔々と述べた。
「政治献金の申告の件は、ただ会計士が登記を誤って、おかしなことになったのだ。この一件で私の誤りは、完全な信頼と信任の問題、財務部長のハンコだけで放任していて、審査のシステムを作っていなかったことだ。
民衆党は(2019年の)結党時から、中小企業を創業して発展していく時と同じで、一人がいくつもの兼職をしている。選挙の財務部長の妹(李文娟)は、木可(展示会準備会社)の会長だ。同時に選挙の出納係と会計係を兼任していた。
もともとは労働力を節約しようとして、かえって監督が行き届かなくなり、その結果、すべての財政紀律を失ってしまった。そして柯文哲と民衆党に対する皆さんの信頼を失ってしまったのだ。
私の誤りは、後のことを考えなかったことだ。民衆党は立法院(国会)に国会オフィスが必要であり、安定した業務運営ができるようにしてほしい。特に現在、シンクタンク、協会、基金会は、すべて中央党本部にある。もう本来なら使えるようになってよいはずだ。それができないから、当時は、選挙補助金を使ってオフィスを買い、国会オフィスとして使用していたのだ。
そのようなことが、多くの人々の誤解を呼び、マイナスの印象を与えるとは思ってもいなかった。それは私の不徳の習慣の致すところであり、責任を負うべきことだ。
いくつもの誤りに鑑み、私は民衆党に、3カ月の休暇を願い出る。同時に自らの調査を願い出る。私個人はよく反省し、今後とも民衆党を率いていけるのか、前に進む力量を支持者に示していきたい」
以上である。この時、柯文哲主席の脳裏にあった中国語は、「謡言只是一陣風」(人の噂も七十五日)だったのではないか。つまり、いま批判の矢面に立っている自分が、3ヵ月間謹慎したら、アメリカの次期大統領就任による新たな米台関係とか、別の話題に世間の目が向くだろうから、「嵐」は過ぎ去るに違いないということだ。
その証拠に、柯文哲氏は9月2日にアメリカ行きの予定を立てていたという証言も出てきた。しばらく海外へ出て「嵐」を避けようということだ。
だが、そうは問屋が卸さなかった。
検察が台北の自宅を急襲
会見の翌日、すなわち8月30日の早朝6時20分頃、台北市検察が、台北市金山南路にある柯文哲主席の自宅を急襲した。柯主席は就寝中で、7時5分頃に検察を自宅に入れた。そのまま午前中いっぱい家宅捜索を行い、昼の12時近くなって終えた。
同時に検察は、同日午前9時前に、台北市の台玻大樓にある柯文哲オフィスも家宅捜索。10時48分に捜索を終え、2台のデスクトップパソコンと、大量の段ボール箱に入れた資料を押収した。
柯主席の家宅捜索について、台湾メディアは、夫人の陳佩王其(ちん・はいき)氏が、同日夜の飛行機で先に訪米する予定でいたため、それを阻止する目的があったと報じている。実際、検察は陳氏に証人として出頭を要請し、そのまま移送した。陳氏は同日の夜10時頃、ようやく拘束を解かれ、黄珊珊立法委員が自ら車を運転して迎えに行ったという。
柯文哲主席も、自宅で深夜まで尋問を受けた。深夜になって、柯主席がそれ以上の尋問を拒否したため、検察は緊急逮捕。8月31日未明に、柯主席の身柄を台北地検に移送した。容疑は、腐敗防止条例違反である。
台北地検前には、多くのメディアと支持者たちが集まった。ワイシャツ姿の柯主席が、少しやつれた姿を見せると、「相信清白、柯P加油!」(潔白を信じる、柯文哲頑張れ!)の大合唱となった。
柯文哲主席の弁護人は、「逮捕は不当」と主張したが、旗色は決してよくない。台湾の大手メディアから個人のSNSまで、柯文哲主席と民衆党に対する非難や悲観的な報道があふれている。
<もともと柯文哲は魚をこっそり盗む猫だったのだ!>(『自由時報』に31日に掲載された元学校教師の寄稿文のタイトル)
<柯文哲の財務諸表を巡る争議が次々に勃発 党主席の地位は危機に瀕した>(『聯合報』に31日に掲載された記事のタイトル)
こうした一連の騒動からは、「素人政治家」を売り物にしていた柯文哲主席の戦略が、完全に裏目に出てしまったことを強く感じる。
「素人政治家」の来歴
柯文哲主席は、1959年8月に、前述のようにいまは半導体のハイテクパークが有名な新竹市に生まれた。父親は同市の日系企業顧問だった。幼少期から「神童」と言われ、台湾大学医学部にトップ入学。医師免許試験にもトップで合格。台湾大学医学部教授(外科・救急医療)時代に、学内の権力闘争に敗れ、自ら政治家になる決意を固めた。
そして2014年の台北市長選挙に無所属で出馬し、見事当選した。2018年も「薄氷の勝利」で再選を果たし、2022年末まで務めた。
台湾政治は、1945年に半世紀に及んだ日本の植民地支配が終わった後、20世紀を通して、中国大陸から落ち延びてきた国民党の一党独裁が、基本的に続いた。それが2000年に、「台湾独立」を綱領に掲げる民進党(民主進歩党)が、初めて政権を奪取(陳水扁政権)。8年後の2008年に国民党が政権を奪還し(馬英九政権)、2016年に再び民進党が奪取した(蔡英文政権)。
つまり、長く国民党と民進党の2大政党が君臨してきた。そこへ、2014年の台北市長選挙で、「いつまでも2大政党の時代ではない」と割って入ったのが、柯文哲氏だった。当初は泡沫候補と思われたが、「無所属の素人目線」を逆に売りにし、若者を中心に「柯文哲旋風」が巻き起こったのだった。
柯文哲氏は2019年8月、台湾民衆党を立ち上げ、自ら主席に収まった。この新党は、完全な「柯文哲党」だった。そして2022年の年末に、2期8年の台北市長の任期を終えると、2024年1月の総統選出馬を宣言したのだった。
「頑固一徹の親分」に2回聞いた
以後、私は柯文哲氏の記者会見で、2回質問に立っている。1回目は、昨年6月4日~8日の日程で日本を訪問した際、最終日に東京で行った会見だ。
当時、7ヵ月先に迫った総統選挙は、「三つ巴」の様相を呈していた。与党・民進党の頼清徳候補、野党第1党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)候補、それに野党第2党・民衆党の柯文哲候補だ。
その会見で、私は一番手の記者として、2点質問した。一つは中国大陸との向き合い方、とりわけ国民党の対中政策との違いだ。これについては、こう答えた。
「いまの民進党(蔡英文政権)は、中国大陸と向き合わなすぎだと、台湾人は考えている。実際、対立していて『互信』(相互信頼)がないではないか。
逆に国民党は向き合いすぎで、台湾人はあまりに従順すぎると感じている。その点、私は中国大陸とは、『両岸一家親』(両岸は一家の親戚)としてつき合うが、従順ではなく互信と対話を重視する」
つまり、民進党と国民党の間を行くということだ。二つ目の質問は、今後、国民党の侯友宜候補と、候補者の一本化はありえるのかということだ。このまま「三つ巴の戦い」が進んでいくと、野党候補が分裂しているため、与党候補が有利になっていく。逆に一本化したら、政権交代の可能性は高まる。
この私の質問に対しては、眉をひそめながら語気を強めた。
「国民党とは政策が同じでないのに、どうして一本化するのか?
特に、中国大陸に対する国民党の政策理念は、はっきり定まっていない。
分かってほしいのは、いまや台湾は、『青(国民党)か、緑(民進党)か』という時代ではないということだ。与党の民進党にも、野党の国民党にも満足していないという台湾人が、大勢いるのだ」
まさに「頑固一徹の親分」という雰囲気だった。実際、昨年11月に、野党候補一本化は完全決裂した。
2度目に質問したのは、総統選挙を翌日に控えた今年1月12日の会見で、場所は台北市内のホテルである。私が訊ねたのは、日台関係と「台湾有事は日本有事」についての見解だった。
「私は(昨年)6月に日本へ行ったが、その時、『台湾有事は日本有事』ということを、会った日本の国会議員や官僚たちが口々に言う。それで日本という国家の生存には台湾が不可欠で、台湾の生存にも日本が大事だということを再認識した。台湾と日本の安全保障は、繋がっているのだ。
思えば、李登輝(り・とうき)総統はそのことをよく分かっていたから、日本のことをとても大事にした。(2000年に)陳水扁総統になってから、日本の価値を貶(おとし)めていったのだ。以後もずっとそうだった。
アメリカ、日本、台湾というのは、言ってみれば一本の線のようなものだ。私が総統になったら、李登輝総統以来、最も日本を大事にする総統になると、あなたに約束したい」
だが結局、柯文哲主席は総統府の主とはならず、いまや身柄は、台北地検に行ってしまった。その後、2日早朝に釈放されたが、柯氏と民衆党をめぐる情勢は混沌としてきた。
「謀略」なのか「自業自得」なのか
今回の一件について、私が気になったのは、頼清徳政権による「謀略説」である。中国や韓国の例を見ても、いったん政権を取ると、汚職などの罪を着せてかつての政敵たちを「排除」していく例は数多くある。実際、同じ民進党内で、頼清徳総統との「反目」が伝えられていた鄭文燦(てい・ぶんさん)氏が「排除」された。
鄭氏は今年5月まで、行政院副院長(副首相)の重職を担っていた。頼清徳政権になってからは、中国との交流窓口である海峡交流基金会理事長に横滑りした。
だが7月6日に突然、柯文哲主席と同じ腐敗防止条例違反で逮捕されたのだ。8月27日には検察が懲役12年を求刑した。すでに民進党の党員資格3年停止の処分を受けているが、有罪判決が出れば党から除名となる可能性がある。
柯文哲主席の場合は、前述のように立法院で民衆党が8議席を持っており、キャスティングボードを握っている。しかもこの半年間の動向を見ると、野党第1党の国民党と組んで、与党・民進党を窮地に陥らせている。そのため、民衆党の力が弱小化していけば、民進党にとって議会運営はスムーズになるというわけだ。
国民党の関係者に聞くと、「その通り」と答えた。
「頼清徳新総統は、早くも4年後の総統選挙でどうやったら再選できるかを考えている。そのために最大のライバルになると目されるのが、民進党内ではホープの鄭文燦、党の外では柯文哲だ。そのため、支持率が高いいまのうちに、この両政治家を排除しようとしているのだ」
だが、民進党関係者に聞くと、「謀略説」を否定した。
「今回の事件は、どんな大物政治家だろうが不正腐敗は許さないという頼清徳政権の方針を示したものだ。謀略とかでは決してない。もともと国民党の方が民進党よりも議席が多いので、仮に民衆党が消滅しても、われわれの不利は否めない。それに柯文哲主席が失脚した後、民衆党では黄国昌立法委員が実権を握ることが見込まれるが、彼は柯主席よりもわれわれを激しく攻撃しているのだ」
台湾の元政府幹部にも聞くと、こう答えた。
「今回の一件は、権力闘争というより、玩火自焚(自業自得)というものだよ。柯文哲は、これまであまりに一意孤行(独断専行)が過ぎたからね。民衆党内部では、朝令暮改に公私混同、何でもありだった。自民党の裏金疑惑に揺れた日本も同様だろうが、台湾の政界でも、もうそんなことは許されない時代だということだ」
ともあれ、柯文哲主席も述べているように、日本と台湾は「一本の線」で繋がっているようなものだ。そのため台湾政界が混乱すれば、日本も影響を受ける。自民党総裁選も重要だが、台湾政局も引き続き注視していきたい。(連載第743回)
天天快樂、萬事如意
みなさまにすばらしい幸運や喜びがやってきますように。
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