青めく夏 | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 

  青めく夏

 

 中村久美子さんから第一歌集『青めく夏』(短歌研究社)が届いたので、感想を少しメモしておきます。

 

  眼裏の紫の空が遠ざかり麻酔の海へ沈みゆきたり  (120ページ)

 

 これは好きな歌です。歌集全体に、着実な日常詠のようでいて、あちこちに異空間への扉が見え隠れするところがいいです。

 

  五歳児の「おすすめです」を引いてやり三回もめぐるジョーカーの札

 

  ばば抜きに負けて悔しい二年生黒い筆箱忘れて帰る

 

 この歌は14ページに載っている2首で、ユーモアがあります。知りたいのは、この五歳児と二年生が同じ子なのかどうかということです。2首の間に時間が流れているのでしょうか。二年生にはもう負けてあげないという作者の心意気のようなものが感じられます。

 

  野の鳥を鵯と括りて呼ぶわれに鵙だ鶫だと畑打つ夫は  (12ページ)

 

 ヒヨとモズとツグミを一括するとは、作者にはすこし鷹揚というか、大雑把なところがあり、そこが歌集の魅力にもなっています。風通しがいいのですね。

 

  柔らかき光含みし白き雲龍のなりして車追い来る

 

 龍雲は大変な吉兆ですが、そこにちゃんと気が付いているのかなと心配になるような感覚があります。この吉兆がもたらした歌集が、この『青めく夏』なのかとも思いました。全体に明るい光に包まれているような気分で読めます。ただし、水俣のチッソ公害なども詠まれており、明るいだけの歌集ではありません。

 

  狂い死ぬ猫を遠めに覗きしは六歳の夏おそろしかりし   (152ページ)

 

 よい歌集だと思います。第一歌集出版おめでとうございます。

 

 

 

  

 

  

 

 

  皆様のご健康をお祈りいたします。

    そして皆様に、すばらしい幸運や喜びがやってきますように。

 

    いつもブログを読んでくださり、ありがとうございます。