雲梯 | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

日置研究室 HIOKI’S OFFICE

作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 歌集『ウーシャントンクー』から、「雲梯」の一連をご紹介します。

 

 

        雲梯          日置俊次

 

 

ベンチの板に手をかけたればシーソーのごとくギイツと浮かぶ白板

 

声上げて泣くしかなきことばかりなり座れぬ白きベンチのごとく

 

寒さとは切なさならむせつなくてルメの肉球ひび割れはじむ

 

肉球クリーム取り寄せて塗るルメの手よ足よ鼻にもすこしぬりたり

 

滑り台は瀧に見ゆるぞ()の波は銀にきらめきすすり泣くなり

 

雲梯(うんてい)のはしごは真青に塗られたり空を渡れといはむばかりに

 

古代中国攻城兵器の雲梯よ「おやすみ(ワンアン)」と夜の挨拶かはす

 

晩安(ワンアン)は犬の言葉に似てゐると思へどそれなら(ワン)は犬なり

 

冬の森のイヌツゲの細き葉の間より月光は降るルメ王の()

 

娘娘(ニヤンニヤン)と呼ぶべきであるかルメ姫は干し芋を()りてワンと()くなり

 

月面のやうな砂場に月光をぼこぼこと踏むルメとわが影