歌集『ウーシャントンクー』から、「雲梯」の一連をご紹介します。
ベンチの板に手をかけたればシーソーのごとくギイツと浮かぶ白板
声上げて泣くしかなきことばかりなり座れぬ白きベンチのごとく
寒さとは切なさならむせつなくてルメの肉球ひび割れはじむ
肉球クリーム取り寄せて塗るルメの手よ足よ鼻にもすこしぬりたり
滑り台は瀧に見ゆるぞ夜の波は銀にきらめきすすり泣くなり
雲梯のはしごは真青に塗られたり空を渡れといはむばかりに
古代中国攻城兵器の雲梯よ「おやすみ」と夜の挨拶かはす
晩安は犬の言葉に似てゐると思へどそれなら王は犬なり
冬の森のイヌツゲの細き葉の間より月光は降るルメ王の斑に
娘娘と呼ぶべきであるかルメ姫は干し芋を欲りてワンと啼くなり
月面のやうな砂場に月光をぼこぼこと踏むルメとわが影
