先日、姫路に出張した際、行きつけのお好み焼き屋に寄った。その店では、ベテランの女性店員が調理(焼き)を、若い女性店員が接客を担当している。ベテランの女性店員が相変わらずちゃきちゃきしていて、手際よくお好み焼きを焼いているのを見て、私は「おばちゃん相変わらず元気だけど、何歳になるんですか?」と聞いた。
すると、ベテラン女性は「ご想像にお任せします」と答えた。別に怒っている様子ではなかったが、女性に年齢を聞くのは失礼な話で、「しまった」と思い、「余計なことを聞いてすみませんでした」と謝った。
もう一軒バーに寄ってホテルに帰って寝る前、お好み焼き屋の件を思い出し、「ああ、今日は失敗こいちゃった」と後悔した。そして「待てよ」と思った。
よく「女性に年齢を聞くのは失礼」と言われるが、なぜだろうか?
女性は「若くありたい」と願い、男性も「女性は若い方が良い」と願う。女性も男性も、若い女性には価値があり、歳を取った女性には価値がないと考えている。だから、男性が女性に対し、聞かれたくない年齢を尋ねるのは失礼なことだ…。
女性が「歳を取った女性に価値はない」と考え、「年齢を聞かないで」と言うのは自由だ。しかし、男性が「女性に年齢を聞くのは失礼」と考えるのは、年齢で女性の価値を決めていることを意味し、女性に対して失礼ではないだろうか。
私は、相手が嫌がることを聞いた、年齢で女性の価値を判断した、という2つのミスをしてしまったことになる…。その夜は、少し寝つきが悪かった。
海外ではどうだろうか。アメリカに留学していたとき、アメリカ人と年齢の話には一切ならなかった。アメリカでは、男女関係なく他人に年齢を尋ねることはほぼない。役所に提出する書類でも、年齢を伝えたくなければ「法律上の独立年齢以上」と記入すれば済む。勤務先にも、自分の年齢を伝える必要はない。
アメリカの企業は、年齢不詳の社員をどうやって管理しているのか。アメリカの企業は、年齢によって給料を決めることはないし、定年制もない。定年制は、「雇用における年齢差別禁止法」(1967年施行)に反し、原則として違法である。年齢に関係なく、仕事ができれば雇用が継続されるし、仕事ができなければクビになる。
ということで、アメリカでは「年齢なんて関係ない。大切なのは本人の実力」というわけだが、国民の感情はどうだろうか。
先日、バイデン大統領(81歳)が国民からの高齢批判を受けて大統領選から撤退した。多くのアメリカ人が高齢の割にエネルギッシュなトランプ元大統領(78歳)に熱狂している、と思ったら若いハリス氏(59歳)が浮上し、「やはり世代交代が必要では?」という声が広がっている。なんだ、アメリカ人も、思い切り年齢のことを気にしてるじゃん。
年齢によって人を差別するのは、もちろん良くない。一方、年齢は人の重要な要素だ。腫れ物に触るように他人の年齢を聞いてはいけないというのも、何だか窮屈だ。靴のサイズを聞くのと同じように、普通に他人に年齢を聞けるのが理想だと思う。
ところで、私は7月7日に59歳になったのだが、その翌日、知り合いに「昨日57歳になりました」と言い間違えてしまった。良い意味だと年齢のことを気にしない、悪い意味だと早くも痴呆症になりかけている、ということのようだ。
(2024年7月29日、日沖健)
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