【経営の視点】国立大学の学費値上げについて | 経営コンサルタント日沖健のブログ

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経営コンサルタント・大学院講師・ビジネス書作家として活動する日沖健がビジネスにとどまらず、社会問題・株式投資・グルメなど、幅広い話題をお届けします。

先週木曜日、東京MXテレビ『堀潤モーニングFLAG』に出演し、「150万円に?国立大学費値上げの是非」というテーマで討論した。30分という時間の制約であまり多くを話せなかったので、私の考えを簡単にまとめておきたい。

3月に慶応義塾大学の伊藤公平塾長が「(現在53万円の)国立大学の学費を150万円に値上げするべき」と提言した。同時に提言した「給付型奨学金の拡充」を含めて、私はこの提言に概ね賛成だ。150万円と言わず、アジア最高レベルの300万円に値上げするべきだと思う(東洋経済オンラインの拙稿「安すぎる大学の学費で日本社会が失ったもの」参照)。

伊藤塾長は、「教育のレベルアップのため」と提言理由を述べている。ただ、「教育」だけではない。AIなど技術の進化で「研究」の質の向上も必要で、さらに研究成果を使った「ベンチャービジネス育成」への期待が高まっている。東京大学の藤井輝夫総長は、2年前の入学式で「東大の使命は社会を変えるベンチャービジネスの育成」とし、23分間の式辞の15分以上ベンチャービジネスについて熱く語った。

人文系の教育ならそこそこ安く済むが、理工系・医学系の教育には金がかかる。研究にはさらに金がかかる。ベンチャービジネス育成にはもっともっと金がかかる。近年、大学はとにかく金がかかるようになっており、金がないとまともな教育も研究もできない。

金が必要なのは納得できるとして、学費ではなく国の運営費交付金で調達すれば良いではないか、という意見が圧倒的に優勢だ。しかし、国の運営交付金の増額は、以下2つの理由から得策ではない。

国からの運営交付金というと、天から降ってくる印象があるかもしれないが、元をただせば国民の税金だ。つまり、学費か運営交付金かは、実際に大学に通っている学生の家庭が負担するか、国立大学と無関係な一般人を含めて国民が広く負担するか、という選択だ。私は受益者負担の原則で払える家庭には払ってもらうのが合理的だと思う。「東大生の親の42.5%が年収1050万円以上」という調査結果を紹介しておこう。

もう1つ、ベンチャービジネス育成に国の運営費交付金を投入するのは不適切ではないだろうか。ベンチャービジネスはうまく行くかどうか不確実で、100社立ち上げて成功するのは2~3社とも言われる。国の金(=国民の税金)を使って「大半は失敗に終わりますが、とりあえず投資します」というのは、なかなか国民の理解を得にくいだろう。

知識社会の現代において、大学の競争力は国家の競争力に直結する。スタンフォード大学があったからシリコンバレーでITビジネスが発達し、ハーバード大学があったらボストンでコンサルティング業が発達した。

スタンフォード大学の学費は約500万円、ハーバード大学は880万円と高い。しかし、こうした大学を卒業すれば高収入が得られてすぐに学費をペイできるので、世界中から優秀な学生が集まる。日本は「安かろう悪かろう」、アメリカは「高かろう良かろう」だ。

地方の国立大学からは、「学費を値上げすると、学生が集まらなくなり、経営が立ち行かなくなる」と懸念の声が出ている。しかし、値上げしたらダメになってしまうのは、もともと学費の安さしか魅力がないということだ。日本には大学が多すぎるので、そういう低レベルの大学はこの機会に淘汰されるべきだ。

地方でも、沖縄科学技術大学院大学のように、特徴的な教育・研究をすれば世界中から学生・研究者が集まる。学費について泣き言を言う暇があったら、魅力ある大学になるように努力してほしい。

今回、伊藤塾長は袋叩き状態だが、学費よりも以前に、そもそもの大学のあり方を考えるきっかけにして欲しいものである。

(2024年5月27日、日沖健)

 

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