この2月中旬、ご本山での御茶所布教の際、時間潰しに本山周辺を散策していた。
すると、歴代ご門主が起筆された扇子が無造作に縁側に置いてあるではないか。
多分、過去の記念法要等で余った記念品だろうが、うっかりゴミに出せるものではない。
一端は、数本を懐に入れたところで、ある苦い思い出が脳裏をよぎった。
今から40年ほど前のことだ。
済生会の総裁が高松宮殿下(現在は秋篠宮両殿下)の頃、滋賀県に御下向いただいたことがあって、そのお礼として愚僧は院長随行者として信楽焼を持参しつつ赤坂の高松宮邸を訪ねたのである。
殿下と院長は迎賓室でご対面中の頃、愚僧は応接室で待機していた。
天上にはスエーデンの海中から採掘されたアメジストで造作されたというシャンデリアが吊され、ライオンの足を象った豪華な机に正対して待っていた。
すると女官らしき方が入室され、『妃殿下(最後の将軍徳川慶喜公のお孫さん)自らがお作りになったクッキーを召しあがれ。』とのたまうが、どうやって食していいのか解らず、思わずハンカチを広げて厳かにいただいた次第だ。
女官が去った後、机の中央にはメノウらしき宝石で作られた箱と灰皿が置いてあり、中にはタバコが敷き詰められていた。
灰皿が置いてあるので吸ってもよかろうと思い、一本吸ったところ何とも言えない芳ばしい香りが漂い、よく見るとタバコに菊のご紋が入っている。
これこそ”恩賜のタバコだ!”
愚僧は通常では手に入らない土産が欲しかったのである。
思わず、10本程度、懐にくすめたところ、すかさず侍従が入室してきて『恩賜のタバコはお帰りの際に差し上げますから。』と言われた。
すべての愚僧の所作がモニターに映っていたのである。
悪いことはできないものだ。
こうした過去の苦い思い出に目が覚めて、扇子は元に戻すことにした。
今時、どこから監視されているかも知れず、モニターにでも映っていたら大変。
おそるおそる、宗務所の偉いさんに申し出たところ、『処分するのに困っていました。どうぞ、ご自由に!』と言っていただいた。
まあ、悪いことはできないもので、過去の思い出におさらいをさせてもらった次第である。
結果、一箱いただくことにした。
サンライズ