ランニングを終えて、ドリブル練習を始めた時、顧問であるケンドーコバヤシ先生。(通称ケンコバ先生)がきた。
ケンコバ先生は厳しいが合理的な練習メニューや的確なアドバイスを与えてくれる。
先生のおかげもあり、弱者校であった難波高校女子バスケットボール部は今では県大会までは駒を進めれるようになっていた。
また、試合後にはチーム全員を焼肉に連れて行ってくれるなど優しい一面もある。
そんなわけでチームメイト皆、人情味溢れる先生のことを信頼している。
「集合!!」
菜々先輩の声でケンゴバ先生の元に皆が集まる。
「お疲れ様です!よろしくお願いします!」
「今日も全員出席か。みんながんばっとるな。」
ケンコバ先生は満足そうに全員の顔を見た。
「総体まであと二ヶ月きった。今日からチーム練習をメインにしていく。スターティングメンバー及び各ポジションは決めてきた。」
「はい!」
チームの雰囲気がピリリと引き締まったのがわかった。
私たちの部活は27人と人数が多い。三年生は1人だが二年生、一年生の数が多く、レベルも近い。
なので、熾烈なレギュラー争いは当たり前。
私も気を抜いたらすぐに同期や後輩に抜かれてしまうだろう。
「今回ちょっとメンバーを変えようと思う。」
なんやて!?メンバーをかえるんやと?
今までは、二年主体のチームで、冷静な判断と視野の広い小谷(りぽぽ)が司令塔の役割で味方にパスを回し、勢いのあるプレーができる小笠原(まーちゅん)と相手の懐まで素早くドリブルで進めることができる私。そしてオールマイティな上西(けいっち)の3人を主体とし、残りの2人は、菜々先輩もしくは一年生でディフェンダーに入ることが多かった。
この戦法で試合ではそれなりに勝つことができ、私はこのチームにはこれが合っていると感じていた。
「先生、何でですか?あと三ヶ月しかないんですよ。」
けいっちが口を不満を露わにした。
「そうですよ、なんで今さら変えるんですかー!」
小笠原も後に続く。
けいっちやまーちゅんが言うのはもっともな事だった。ポジションが変わると、なると動き方もガラッと変わることになる。それは今までやってきた事を一からまたやり直すことに等しい。それを三ヶ月後の大会に間に合わせるとなると相当な負荷がかかることになる。
「けいっちまあちゅん、まあ最後まで聞こーや」
「はい…」
けいっちとまーちゅんは菜々先輩に言われて渋々口をつぐんだ。
「それで、だ。今度の試合は小谷のポジションに山本、山本のところに小笠原、そして城西と小笠原のところには一年の薮下と木下を使おうと思っている。」
「えっ……?」
「どゆこと?」
チーム全体がざわつく。
何で、私がりぽぽのとこのポジションなんや?
うちの武器はドリブルで、速攻で相手のゴール下まで行ってから攻めるのがセオリーだったはず。それに今のポジションは皆のバランスかよく取れていると思ってたけど…
「わかりました!!」
ようやく活躍のチャンスが来た!とばかりに、元気よく一年生の百花と柊が目を輝かせる。
「わかりました。」
りぽぽは怒っているわけでもなく淡々と返事した。
一方、けいっちは俯いて口を真一文字に結んで黙っていた。
確かにけいっちは最近あんまり調子良くないけど。
じゃあ、なんでりぽぽはあんなに冷静なんやろ。
一年にレギュラーを奪われるなんて、うちやったら悔しくてしょうがないのにな。
私は複雑な気持ちでいっぱいになった。