不倫。
この恋の意味が二年かけて、少しづつ分かりかけてきた。
けどまだわからないこともたくさん。
あと一年。この恋が終わったら、私に何が残るのかな。
彼との一週間。①
あの一週間は、夢のような一週間だったわ。
もしかして夢だったのかもしれない。
あの時の一週間で、私たちの距離はとてもとても縮まった。
夏の終わり。秋の始まり頃だった。
彼の奥さんが子供と一緒に旅行することになったの。
初日。
私も、彼も、浮かれていたわ。店を休んだし。
初めて、昼から晩まで一緒にいることができた日だった。
彼は釣りが好きだから、ダムに行ったの。普通のダムなのに、彼といるとすべてが美しく感じた。
緑の木々。
水面の光。
夕日の眩さ。
2年も前なのに今でも、はっきりと覚えてる。
それから焼肉を食べに行った。肉を焼くのにとても緊張していたわ。そしたら彼が焼いてくれた。
そして。
その日初めて、彼の家に行った。
彼の家は、忘れたいのに忘れられない。
独特な子供のにおい。
床に転がる子供のおもちゃ。
きちんと片付けられたキッチン。
壁にかかってる写真。
いっぺんに現実が襲ってきて、私は泣いた。
彼は結婚していて、家庭がある。
彼が私の頭をなで、「ごめん。家を出ようか?」と言った。
けど私は首を振り、あの家で寝た。
私の小さな復讐。
ほんとに小さな小さな、復讐。
恋の欠点。
2人の恋が始まってから、私は恋におぼれていった。
店が終わったあとに、少しでも飲みに行ける事になったら、嬉しくてしょうがなかったり。
休憩時間にホテルに行って、いちゃいちゃしたり。
公園に散歩に行って、陽だまりの中、昼寝をしたり。
彼が家に帰るというのを、泣いて止めたり。
抱きしめたり、抱きしめられたり。
私はあまりいい恋愛をしていた方じゃないから、彼に奥さんがいても、これはいい恋愛だと思ったわ。
けどこの頃、彼には今とは明らかに違うところがあった。
私のことを完璧に好きではなかったの。
今。
この日記を書き始めて、私の思いはますます深まっている。
日毎、彼を想う時間が増えている。
私がアルバイトがなくて、店に入っていない時、彼は何を見て何を話しているのか。とても気になる。
この恋に、束縛は絶対ナシなのに。
最近、また私は、最初から恋をしているような気がする。
二人の始まり。
まだ彼と恋人同士じゃない頃、私は彼と話がしたくて仕方がなかった。
彼が結婚をしていると知ってから、恋の対象ではないけれど、興味の対象ではあった。
私はその頃、彼氏も他にいたし、浮気相手もいたから、恋の相手には不自由してなかった。
ただ彼に興味があった。
彼がどんな話し方をし、
どんなことを考え、
どんな愛し方をするのか。
二人の始まりは、あまりにも突然だった。
私の家は料亭の近くにあり、彼の実家も料亭の近くだった。ふだん、彼は家族が暮らす遠い家に帰るんだ
けど、その日は違った。
「ヒナさん」
「あ、お疲れ様です」
「たぶん、今日俺ヒナさんと帰り道、一緒」
「そ~なんですか?」
「一緒に帰ろ」
突然のことで、実は私、この時のことをあまり覚えていないの。
舞い上がってしまって、たぶん、変なことをたくさん言ってたに違いないわ。
まだ話していたくて、ゆっくり、ゆっくり歩いた。
彼もまた、ゆっくり歩いていた。
気がついたら信号のところで立ち止まって話し続けていた。今考えると、あの場所は彼の家からだいぶ過ぎ
ていた。
4月で夜はまだ少し肌寒くて、私が寒そうにしてたら、
「ちょっと飲みに行こうか」
彼が言った。
それが二人の始まり。
はめられたような。はめたような。