何を聞いても。何を見ても。
かなわぬ思い。
この恋がかなわぬ恋だということは、最初からわかっていたの。
何を聞いても何を見ても、私は彼を思い出すから、彼がいなくなっても大丈夫なのかもしれない。
彼は時間を気にして帰るし。
彼の携帯の待ち受け画面には、可愛い娘。
それでも彼といると、嘘でも脚色でもなく、周りの景色がキレイに見える。
店の中に彼がいたら、楽しく仕事ができる。
「生まれ変わったら、絶対、私を選んでね。」
昔、私が言った言葉。
今はこのままで。
そばにいるから。
私は愛人?
この言葉には抵抗あるけど、とても色っぽい言葉だとも思う。
私には似合わない。
まだ、恋人、でいいかな?
永遠にかなわない想いを抱えて。
まだもう少し、そばにいさせてね。
あっという間に終了。
あの時は、ちょっと本当にショックだったわ。
彼がもうすでに結婚していると知ったときは。
それを知ることになったのは同じホールの女子高生のおかげなの。
彼女もまた彼のことを憧れていて。
私「料理長、かっこいいよね~」
女子高生「うん!あたしも憧れてる♪彼氏いるんだけど、料理長は別で好きだな~」
私「料理すごいし、話したらおもしろいしね」
女子高生「やっぱりあれくらいの人だと結婚してて当然だよね~」
私「・・・へ~結婚してるんだ」
女子高生「うん、娘さん携帯の待ち受けになってるらしいよ~」
やっぱり・・・と思った反面、落ちない男がいたことが悔しかったわ。
けど、そこは若いから立ち直りも早く、彼は恋愛対象から憧れの人となった。
若さゆえ・・・?
私は二年前、そう18歳の時だったから。私に落とせない男はいないと思ってたの。
彼に恋してしまった私は、色んな方法で、彼の気をひこうと必死になってた。
まかないをもらいに調理場へ行く時、少しでも彼の側に行き、話しをしたり。
偶然、カバンにお菓子が入ってた事にして、二人っきりになりたくて帰りに渡したり。(この時チョコが嫌いな
ことが発覚)
今考えると、私かなり可愛いことをしていたんだわ。
けど心の中では、絶対落とせると思ってたんだから。
すごいね。若いって。
ホールの仕事。
私がやっているホールの仕事はとても単純な仕事で
・料理の注文を聞いて、調理場に通す。
・できあがった料理をお客様のもとに運ぶ。
・飲み物を聞いて、作って、持って行く。
・お客様が帰られた後の片付け。
ぐらいなもので、誰にでもできるものだった。
けど二年前の私にしたら、簡単なことが簡単ではなかった。
グラスは割るわ、灰皿落とすわ、注文間違えるわ(今もあまり変わってないけど・・・)とんでもなかった。
けどこれだけは胸を張って言える。
料理だけは落としたことがないの。
まず出会いから・・・。
私と彼が出会ったのは私があの料亭でアルバイトを始めた日、そう二年前の二月二十七日。
懐かしいわ。
まだ緊張した面持ちの私に、「まぁ、がんばって」と声をかけてくれた。
彼は料理長。料理の腕はもちろんすごくて、作る料理は繊細でかつ、どこか激しさがある、そんなものだっ
たわ。
まだ彼のことを何も知らなくて、けど惹かれていって。
そんな恋の始まりだった。