馴 染  | そろって浄土に弥次喜多道中膝栗毛

そろって浄土に弥次喜多道中膝栗毛

残り少ない人生、死ぬのは苦しいものか、どうも痴呆老人になって死んでいくようだ。お寺の坊さんに頼んでいるが。
残りの人生、東海道中膝栗毛の弥次喜多道中のように気楽に行けないものか。


遊女屋にて遊ぶ客 そろそろ3回目の登楼なれば 遊女とも心やすく打ちとけて
一戦におよびし後なれば やや気持ちいささかゆったりと そこで遊女 なにごとならん思わず

〈知ってか知らずか〉「プー」と オナラ一発
布団の中 それも温かき布団の中なれば 一段と臭気こもり 客 思わず 「うー 臭い」と笑いながらも 鷹揚に

$そろって浄土に弥次喜多道中膝栗毛


遊女 慌てて いや 慌てることなく 「必ず笑いなんすな わっちゃァ ぬしを客衆だとは思ひんせぬ。やっぱり亭主と思いすによって、こんな恥ずかしい事をしんした。必ず悪しく思って

くんなすな」(p101)
言いようもいろいろ 亭主なら 布団の中でおならをしてもいいのか 聞いたこともなし 遊女の手慣れ客あしらい いいように言いくるめるもの さすがはプロ

客 いいように言いくるめられしが 「なに、俺が悪く思ふものか。そふ心に隔てのないが、や
っぱりありがたいわな」(p101)

遊女の上手き客あしらいに お客 大様なところをみせ 「ありがたいわな」とは 言い方いろ
いろ 

しかし、なにごとかならん 遊女 二発目のおなら プーと これはしたり
そのこもった臭き匂いに さすがのお客も いささか辟易し 掛布団をあげて空気の入れ替えを

したきところなれど 色気なしと思いしか 我慢して 「ハテ 疑い深い」
男女 親しきなれば 布団の中でのおなら 我慢すべきか どうすべきが考えどころ

相手の耳をふさいでプーとするのも考えるものの 匂いは如何ともすべきようなし
遊女の上手き言い訳の 奥の手 

 「母の全快祈願に、毎月一度 客の前で恥をかくと願かけた」(p101)のはどうか
いずれにしても 百戦練磨の遊女に敵うことなし いいようにあしらわれ 金を絞りとられ

最後は 金の切れ目が縁の切れ目
今風に言えば 親しき仲にも礼儀ありか 心すべきことなり

       「江戸風俗絵入り小噺を読む」武藤 禎夫著 東京堂出版から


ここで 

        都々一も謡いつくして三味線枕

           楽にわたしは寝るわいな

                  都々逸坊扇歌[初代](五十七歳)

        「辞世千人一首」荻生 待也著 柏書房 (p166)