鏡に写る雄輔がじっと私を見ている。
『…何か…言ってよ…(//・_・//)』
無言のままじっと見つめる雄輔に恥ずかしくなって目を伏せるとそう言った。
「夏海…綺麗…」
そう言ってくれた雄輔もグレーのタキシードがよく似合っていた。
私の隣に椅子を持って来ると、背もたれを抱くように反対向きに座り、にこにこと嬉しそうに話しかける。
「ドレスを着た感想は?」
もう…雄輔の意地悪…。
『…嬉…しいよ…』
嬉しさで頬が緩んでしまうのが恥ずかしくて、素っ気なく答えた。
「しょうがねぇなぁ(笑)」というように雄輔が笑っている。
ちょっと悔しいけど、でもいいか…。
「左手、見てみ♪」
おれの胸で目覚めたばかりの夏海に「おはよう」のキスをすると、そう言った。
まだまどろむ夏海が目をやった先には薬指にはめられた指輪…。
腕枕を外すと同じ指輪をしたおれの左手を夏海の前に翳した。
「結婚指輪♪」
子供の事がなくても、おれはここで夏海にプロポーズするつもりだった。
夏海からは昨日までの不安そうな表情はすっかりと消えていた。
穏やかで落ちついた様子が綺麗で、おれは夏海を求めてまた抱いた。
さっきまでの出来事が恥ずかしいのか夏海が伏目がちに朝食を食べている。
さっきまではあんなに大胆だったのに…
そんな夏海が可愛くて、じっとその姿を見つめていた。
「夏海、行くべ♪」
突然そう言って連れてこられたのが、この部屋だった。
「『何で結婚指輪?』って、思ったべ?プロポーズなら婚約指輪だもんな(笑)」
目の前には真っ白なドレスが用意されていた。
『ちょっと、どういう事?』
「だって、昨日結婚しようって言ったべ?」
いつだったか雄輔に「結婚するとしたら、神前とチャペルどっちがいい?」と訊かれた事がある。
私は『2度目だから式は…』って答えた。
「夏海はああ言ってたけど、せめて写真くらいは撮りたかったの!」
雄輔は最初からこの旅行でプロポーズして結婚写真をとるつもりだったらしい。
「おれとじゃドレス着たくない?おれは夏海のドレス姿を見たいんだけどな~」悪戯っぽく笑う雄輔。
私が断ったらどうする気だったのかしら?そんな事を考えたら、何だか可笑しくなった。
「何だよ?ドレス…着たくね~のかよ!?」
いつまでも返事をしない私に不安になったのか、怒ったように雄輔が言う。
そんな雄輔が愛しくて、嬉しくて抱きついた。
スタジオの準備ができて、係りの人が呼びにきた。
「ほら、行くぞ!」夏海の手を取って立ち上がらせると、ぶっきら棒に言って腕を突きだした。
なかなか腕を組もうとしない夏海に『早くしろよ!』と言うと、
その声に驚いたようにおれの顔を覗き込む。
『やだ…雄輔泣いてるの?』
えっ…?
自分の頬に触れると涙で濡れていた。
さっきまで照れくさそうに下ばかり向いていた夏海が呆れたようにハンカチを差し出す。
普段のしっかり者の夏海の顔…。
やっぱおれの方が甘えてんな。
何でもいいか…。
余計なこと全部取り除いたら、答えはいつもシンプル。
おれは夏海が好き。夏海と生きて行きたい。
『雄輔、行くわよ(笑)』
そう言っておれの腕を取った夏海は最高の笑顔だった。
おしまい