直樹の優しい性格を知りながら、そうしている自分をズルイと感じながら…。
エレベーターから降りてきた手前の部屋の住人が、2人をチラッと見やって自分の部屋へと入って行く。
『中に入って』 そう言って和美は直樹を部屋に招きいれた。
ガシャーン!
和美が飲み物を入れに行ったキッチンから派手な音がして、直樹が慌てて駆けつける。
『ごめんなさい。手が滑っちゃった』
そう言って片づけをしようとする和美を直樹の手が止めた。
「…いいから。 僕がやるから」
そう優しく笑う直樹に促され、和美は居間に行くとソファーに寄りかかるようにして座った。
「キッチン借りるよ。 牛乳あるかな?」
片づけ終えた直樹が飲み物を作り始めた。
やがて甘い匂いがして、ココアの入ったマグカップを手にした直樹が戻ってくる。
「飲んで。 きっと落ちつくから(-^□^-)」
にっこりと笑う直樹に、自分が情けなくて、直樹に申し訳なくて、和美の目から涙が溢れる。
『ごめんなさい』 そう謝る和美に直樹が優しく笑う。
「何で、謝るの? 僕、謝られるような事、何もされてないよ」
両手で包み込むようにマグカップを持ちながら、そっと直樹の肩にもたれる。
時々、直樹の手が優しく和美の頭を撫でる。
言葉は交わさず、お互い無言でココアを飲んだ。
「彼…の事?」
先に口を開いたのは直樹の方だった。
その頃には、空になったマグカップがすっかり冷えていた。
つづく