なんだか、とてつもなく胸騒ぎがした。昔も二回度ほど同じ様なことがあって……一度目は僕の母親が無くなった頃。そしてもうひとつは誤作動。それが、あの例のルカのレントゲン写真を部屋に持ち帰った日。普段は警備員がいるんだけど、あの誤作動の時は誰もいなかった。ただ、地下の奥の奥は……警備と鍵で僕は近寄ることもできなかったけれど。今度も誤作動だといいな。と僕は思いながらも地下前へと辿り着いた。この、広いお屋敷だけに一苦労で少し息も上がっていた。めったに地下前には行かないものだから、妙に懐かしかった。自動ドアの裏には柵の門があってその下に階段が続いている。僕は自動ドアをくぐるとすぐ異臭を感じた。そして階段を進むほど大きな空洞が広がってゆく。そして、警備の人を含め、数十人が困惑した表情で立ち尽くしていた。もっと奥には親父がいた。慌てた様子の親父。僕は不振に見つめながら、駆け寄り、声をかけた。
「何?どうしたの!」
すると親父はこう言った。
「ユキ……。サクラ……見なかったか?」
何?僕は親父の言葉を疑った。親父がサクラを?僕は、朝からの出来事や昨日のルカの怪我の件の理解があまりにも非現実的な為、まったく理解できなくて……「この地下室に秘密が隠されてるの?」と、僕はそういうと、止める親父の腕を振り払って地下の奥の奥へと走りこんでいた。多少パニックになっていたのかもしれない。異臭と煙が立ち込めてあまり前が見えない中がむしゃらに走った為、壁に腕をぶつけてすりむいたりしてしまっていた。ただ、走るだけ走ってみて行き止まりにあたり、僕が見たものは想像もしなかった、不思議な光景だった。僕は目を丸くしてその場に立ち尽くしていた。頭の中はまさに真っ白。そして、色々な見解が自分なりに飛び込んできてどんどん頭が痛くなって僕は、頭を抱えてうずくまってしまった。
気を取り直して目線を上げてみる。厚い鉄の壁がえぐられたように形を変えて穴を開けている。そしてその奥には……
女の子の部屋があったんだ。
確かにサクラって親父は言った。ということはこれはサクラの部屋なのかもしれない。そしてこのえぐられた壁は誰が空けたのか。今朝、サクラは二階から飛び降りるという普通じゃない行動をとった。ということは、この壁はサクラがやったという可能性もある。でも、一緒に幼い時を過ごした彼女は普通の女の子だった。特別運動神経がよかったからとか、そんなレベルじゃない壁の空洞。僕はただ目をまるくして、その場にうずくまったまま顔をひざに埋めた。頭の中はつじつまの合わない僕の中での真実がぐるぐるまわっていて……ルカのことサクラのこと。頭を抱え込んでしばらくたってからだった。
ポンッ
親父の手が僕の肩にかかる。そして、
「すまない…いろいろな事をユキには隠している。」
振り向くと、親父と、そしてあのシアさんがいた。
「シアさん!」
久しぶりだった。思わず叫んでいた。でも、久しぶりな彼女は相変わらずとても綺麗なブロンドの髪と瞳をもって群を抜く美しさだった。僕は危うくこんな状況でありながらも見とれてしまいそうな所「何が起こってるの?」と、後ろからのそのそやってきたルカに気がついてはっとする。やっぱり地下で母子の関係を恵んできたのか、シアさんはルカの頭を優しく撫でてあげていてルカは照れながらも嬉しそうにしている。すると親父は「ちょうどよかった!ルカ!今から一緒にサクラを探しに行こう!」と、そういってルカの腕を引っ張るものだから、僕は慌てて立ち上がり、ふたりの間を割って邪魔をした。だって……ルカはこんな小さな子供なのに。これ、万が一サクラがやったとしたらあまりに危険なんじゃないの?そう思いながら目を丸くして親父を見つめていると、親父はそんな僕を振り切ってルカの腕を掴み、僕にこう言った。
「今、ルカが必要なんだよ!すまなかった!事情はシアに聞いてほしい!」
そういうと、シアさんが身を乗り出す僕を抑え、気がつけば、親父とルカの姿を僕は見失ってしまった。今思うと、僕はどんな表情で親父を見つめていたのだろうか。目を見開いて取り乱してかっこ悪かったに違いない。だって、皆、周囲の警備等研究に人達は、この状況を理解している顔に見えた。知らなくって無知で、数倍混乱しているのは僕ひとりだけ。なんだかそれがショックで、とてつもなく、情けなかった。そして……シアさんと僕の間には今、微妙な空気が流れていた。僕は、なんだか恥ずかしくなって、シアさんから一歩下がってその場で俯いて、うなだれてしまった。なんだか悔しかった。真相、事実を知りたかった。取り残されたこの気分を今すぐにでも払拭したかった。