ベトナム戦争で名誉勲章を受け、レースドライバーや警官の職を経て現在は車の陸送で生計を立てるコワルスキーは、コロラド州デンバーから1200マイル離れたサンフランシスコまで、白の70年型ダッジ・チャレンジャーを15時間で届ける賭けをする。交通法規を無視して暴走する彼を警察が追う中、警察無線を傍受した盲目の黒人DJスーパー・ソウルがラジオで実況中継を開始。コワルスキーの逃走劇は世間の注目の的となるが……。
当時まだ無名だったバリー・ニューマンが主演を務め、「荒野に生きる」のリチャード・C・サラフィアンがメガホンをとった。脚本を手がけたギレルモ・ケインは、キューバ出身の作家ギリェルモ・カブレラ=インファンテのペンネームだったことが後に判明。
アメリカン・ニューシネマの傑作「バニシング・ポイント」4Kデジタルリマスター版、3月3日公開
1960年代末から70年代半ばにかけ、アメリカ映画界を揺るがしたアメリカン・ニューシネマを代表する一作「バニシング・ポイント」の4Kデジタルリマスター版が、2023年3月3日公開される。
既存の体制や文化への反抗や、現実に敗北する主人公の姿を描いた多くのニューシネマとは一線を画し、何も求めない主人公の虚無感が全編を貫き、そして、壮絶なカー・チェイスと高鳴るロックのなか、主人公コワルスキーの不条理なまでの逃走劇を描く。スティーブン・スピルバーグ監督がフェイバリットであることを公言したほか、クエンティン・タランティーノ監督は自作「デス・プルーフ in グラインドハウス」でオマージュを捧げた一作だ。
監督は、「荒野に生きる」(71)、「ロリ・マドンナ戦争」(73)など、アメリカの辺境地を舞台にした異色作を放ったNY出身の鬼才リチャード・C・サラフィアン。主演のコワルスキー役に当時無名のバリー・ニューマン、そしてコワルスキーとラジオを通じて交感する盲目のDJスーパー・ソウル役に「ブレージング・サドル」(74)のクリーボン・リトルが扮している。作品のもうひとつの主役ともいえる劇中車はクライスラー社の70年型ダッジ・チャレンジャーR/T。
そして初公開当時、正体不明だった脚本のギレルモ・ケインの名は、現在ではキューバ出身の作家、評論家として欧米で名高いギリェルモ・カブレラ=インファンテのペンネームだったことが明らかになっている。ラテン・アメリカ文学特有のマジックリアリズムを脚本に取り入れ、オープニングとエンディングが「メビウスの輪」のように繋がっている構成、魂の円環を描いたこの作品の主題だけでは済ますことのできない画期的な作品だったことがわかるだろう。
「バニシング・ポイント」の4Kデジタルリマスター版は、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開。