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『もし…』
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そう言うヤツが嫌いやった。 
そんなん負け犬の当吠えでしかないって。
『逃げ』でしかないって…思うから。
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そんな俺も、今まで生きてきて一度だけ。 
その『もし』を望んだ事がある。
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『もし、あの人じゃなければ…』って。
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if…〜 scene1〜
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≪明日美、久しぶり。元気?
あのさ、今度同窓会やるんやって!行かん?≫ 
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その連絡に気がついたのは、深夜のビル掃除のアルバイトが終わった後。
まだ寒さが残る、朝焼けがキレイな春先。
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東京に出てきて5年。
 『同窓会』なんて初めてで。
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《東京におるメンツで集まるらしいんよ》
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唯一繋がってる高校時代の友達、円(まどか) 。
工業高校出身の私。 クラスに女の子は、私とこの子だけ。
女友達って呼べる友達も、彼女位。
そんな円からの連絡も、久しぶりだった。
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『行こうかな』
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そう思ったのは、寝不足で頭がよく回らなかったからなのかもしれない。 
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≪ん。行く。詳細また連絡して≫


そうLINEを送ってデニムのポケットにスマホをしまった。

太陽が上4分の一姿を現すと、夜から一気に朝に変わってく。

「まぶしっ」

寝てない私の瞳にそのオレンジはキツすぎて、ぎゅっと瞼を閉じた。 閉じた瞼の奥に思い出す記憶がある。
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…この色を私は知ってる。
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※※※
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5年前。
18歳、高校3年生。
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始発の電車をホームのベンチで待ってた。 
オレンジの分量が増してく空を見てると、朝陽と夕日は同じオレンジなのに、何でこんなに違うんだろうって小さい疑問が頭に浮かぶ。
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「なぁ?」
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黙って隣に座ってた彼の声に、オレンジから視線をそっちへと向けた。
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「ん?」
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「『明日美』って、ほんまええ名前よなぁ。『明日が美しい』…って、むっちゃえーやん」
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 「前も言うてたやんね、それ。
何なん?名前負けしてるって言いたいん?
彰吾やってええ名前やん。かっこええやん」
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「いや、普通やろ。なんかもっと目ぇひく名前がよかったわ、俺」
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「目ぇひく名前って何よ?ウィリアムとか?」
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「色白いイコールで出てくる名前がウィリアムって発想が、浅すぎるやろが(笑)」
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「山本ウィリアム彰吾、どう?(笑)」
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「あほらし。ほら電車来たで。一時間目、間に合うんか?」
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「ギリ、いける」
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「んな、学校でな。電車で寝たらおえんで」
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「彰吾もやで」
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ホームを挟んでお互いの路線の電車に乗り込むと、私の方が先に出発で。
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軽く手を振ると『んな』って右手を上げてそのまま座席に座ると、彼が秒で眠りに落ちてくのが見えた。
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「寝たらおえんって言うたん、そっちやん。あほ」
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そう言いながら、私も座席に座ると、そのまま眠りに落ちてった。
3つ向こうの駅まで乗り過ごしてしまって、結局学校に行けたのは昼からで。 
彰吾が来たのは6時間目の始まる前。
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「山本は、随分エラなったんやなぁ」って先生に嫌味を言われながら、私の隣にすとんと座った。
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「気ぃついたら、笠岡やったんじゃけ。焦ったわ」
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「彰吾、すぐ寝てたで?乗った瞬間」
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「何で起こしてくれんかったん?番号、こないだ教えたやろが」
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「はっ?何で私なんよ。彼女に頼みぃや、そういうん」
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「いや、真面目に学校行っとるあいつにそんなん言えんて。ドン引きやで、こんなん知ったら」
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岡山の有名なお嬢さん学校に通うかわいい彼女ができたって、いつだったか周りが揶揄ってるのを聞いた事がある。
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『彼女持ち。…ただのクラスメイト』 
私と彰吾は3年間、そんな関係だった。
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≪OK、また連絡するな≫ 
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円からのLINEを確認して、スマホを閉まって顔を上げた。
オレンジが薄まって一日のスタートを告げる空の色に変わってく。
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街が動き出す時間。
目の前の信号の青が点滅し始めると、急かされる様に横断歩道をわたりきる。
車なんて通るような時間でも、大きい道でもない。
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それでも、走って渡った。
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...next
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新しいお話始めます。ご無沙汰してます。
やましょーさん、一度描いてみたくて。
 そして、メンバーがライバル関係になるお話は、ずっと避けてきたんですけどね、いってみようかと。 
ヒロイン『明日美』とかいて『あすみ』ちゃんです。標準語以外のヒロインも初めてやな。
気長にお付き合いお願いします。 himawanco