tomorrow〜scene44〜

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「私も無理やった…壱馬くんがおらんと、無理やもん」

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そう呟くとぎゅって抱きしめられた背中。

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「『一人でがんばる』って決めて勝手におらんようになった癖に、『もう、無理やけん、帰るわ』とか言えんし…」

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「…」

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「仕事は、楽しいんで? やりがいもある。何の不満もない。 友達やって、向こうにもおるし、生活してくには、不自由なんて一個もない」 

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「…」

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「…でもっ」

俺を見上げる瞳から、すーって涙が落ちてく。

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「壱馬くんはおらんからっ…」

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「っ…」

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「声は聞けても、それじゃ足りんくて…。全然足りんくて。 電話した後、頑張ろうって思えるんやけど、でもめっちゃ会いたくなって。 

声が聞けて嬉しいのに、ぎゅってなって…泣きそうになって。

もう、どうしたらええん?ってなってた、ずっと…」


途切れ途切れな言葉で、自分の気持ちを精一杯伝えてくれる彼女。

俺も泣きそうなんを堪えるのに必死やった。

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「ごめん、壱馬くん。最低やな…私。ほんまに」そう言って俯く顔を下から覗き込んだ。

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「嬉しいで?俺」

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「えっ?」

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「明日美さんにとって、俺は必需品って事やろ?それ。

衣食住と同じラインに、俺っておるんやんな?

ちなみに、そんなかで、俺って何番?」

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「……一番」

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「ふふっ(笑)よっしゃ」

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俺のその声にさっきまで泣いてた彼女の顔がふわっと緩んで、柔らかく笑う。 

そう、この笑った顔の側に俺は居りたいんよ。

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離れてた体をもう一回引き寄せた。

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「もう、どこにも行かんで。俺の側に…ずっとおって」

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「…ん」

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目を見て、自分の言葉で気持ちが伝え合えた事。

声だけでは、伝わらない温度が…表情が…、俺らのこれからに光を射していく。

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明日美 side

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「明日美さん?店、まだやってる?」

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「えっ?」

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「社長さん、まだ居る?」

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「えっ…まだ居ると思うけど…」

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「連絡して?今。すぐ行くんで居って下さいって」

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「えっ?」

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「俺からもお願いするから。明日美さんが帰って来れるように」

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「でも…」

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『自分で話しする』って言っても、壱馬くんは『いや、俺が』って聞いてはくれなくて。 結局一緒に向かった社長の元。

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「ほんまに行くん?壱馬くん」

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「当り前やし…」

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ドアを開けると「こんばんはー」って声と一緒に、社長の視線が壱馬くんへと向いた。

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「こんばんは」 

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「おっ、いらっしゃい。…おかえり、明日美。

…君が、壱馬くん?」

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「はい、はじめまして。川村壱馬と申します」 

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「はじめまして」

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カウンターから降りてきた社長が、私の前へとやってきて、口を開いた。

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「で?どしたの?急に話しって…」

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「あの…社長、私…」

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「明日美? あそこのシェルフさ…」

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私の言葉を遮ると、店の一番奥のシェルフを指さした。 4段のシェルフに服は一枚も置かれてなくて。

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「あそこ、お前のブランド用だから。

…結構人気だって聞いてるけど? 『Moon Light』 

明日美が作る洋服が売上取れるなら、俺、今までよりも買い付けに行く回数少なくて済むし? そしたら、その分の交通費も浮くわけだし?

儲かるなーそれ。

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それに、明日美が帰ってきてくれたら…店が忙しい時は、接客も任せられるじゃん?そしたら、俺は休みたい時に休めるし。こんないい事ないじゃんな?」

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「…っ」

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「俺も、たまにはロスにも行きたいし。置いてきた金髪の彼女も…」

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「えっ?」

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「ふふっ(笑)」

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「あっ、今の嘘だ!」

私がそう指摘するとふふって笑う。

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「いいんだよ。とりあえず、帰って来い。 制作スペースは、お前がちゃんと帰国するまでに、用意しとくから。

『Moon Light』 いいじゃん、オシャレじゃん」

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「ありがとうございます…私…」

こらえきれなくて、涙がポタポタ落ちてく。

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私が何を言おうとしてここに来たのか、全部社長にはお見通しだった。

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「明日美?」

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「…はい」

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名前を呼ばれて、上げた顔。 

目元を優しく下げた社長が、『帰ってこい』って、掌を私の頭にポンって乗せた。

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この手に、何度救われてきたんやろう…。

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「売れる服、作ります…。社長に、いっぱい恩返しします…。ありがとうございます」

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震える声でそう言うと「楽しみだな、それ。約束な」って笑う。

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『最低だって思う事に直面したからこそ、得られるもの』 

山田さんが、言ってたそれ。

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そのうちの一つは、間違いなくこの人と出逢えた事。

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…next

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