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tomorrow〜scene30〜
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「彰吾?ちょっと話しあるけ、今から行くわ」
明後日の新幹線で岡山に戻るっていう日。
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昼過ぎに円から電話。
その後一人でうちへやってきた。
円が一人で来るって事は珍しくて。
修二とケンカでもしたか?位に思ってたのが本音。
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「よっ、彰吾っ。
わー、部屋めっちゃ片付いてるやん」
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「そりゃそうやろ、明後日引っ越しやで?
どしたん? 修二とケンカでもしたんか? まさか『結婚辞める!』とか言わんやろな?」
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「言わんし…そうちゃうけ」
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「じゃあ…なん?」
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俺がそう聞くと、ポケットから取り出したスマホで時間を確認してるようやった。
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「よし、もうええな。…はい、明日美から」
鞄から取り出した封筒を俺に差し出した。
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「明日美から?」
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「ん…中、読んだらわかる」
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そっと開いたそこには、見慣れたまるっこい字が並んでた。
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彰吾へ。
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ごめんなさい。
直接逢って話しすべきなんはわかってる。
でも、今、彰吾の顔見たら、また甘えてしまうかもしれんけん。黙って行く事にした。
私は岡山には帰らん。アメリカに行く。
東京からは逃げるけど、あっちでもう1回がんばる。
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彰吾も、もう一回がんばって欲しい。
助けてくれる人、彰吾の復帰を待ってる人、いっぱいおると思う。
勝手な事言うてごめん。
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私な、『踊らん彰吾はおもんない』っていつも言うてたけど、違うんよ、ほんまは。
そう言うたらさ、彰吾めっちゃがんばるって知っとるけんなん。
やけん、最後に言うとくな。
『踊らん彰吾はおもんない!』
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踊ってる彰吾が、好きなんよ、私。
やから、もう一回がんばろ、一緒に。
明日美
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「はっ?ちょっ待って。何、どういう事なん?」
もう、頭の中はパニックで。 アメリカ?何なん、これ…。
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目の前のスマホを手にとって、呼び出した明日美の連絡先。 …繋がらんかった。無機質な音声が耳に響くだけ。
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「円!明日美の番号!お前にはっ…!」
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「言わん。明日美と約束したから。 彰吾にも、修二にも、それは言わん!」
目にいっぱい涙を溜めた円が、首を横に必死に振る。
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「明日美、がんばるって言うてたから。一人でがんばるって。 『頑張れる自分に戻りたい』ってっ…。
私はそれを応援するって決めたん。
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…なぁ、彰吾は?やれる事、全部やった?
山田さん、連絡してくれよんやろ?修二から聞いとるで?
ランページのみんなやって、待ってくれてるんやないん?」
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「やからっ…俺はもうっ…」
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「何でなんよ!何で、あんたが一番に諦めるん?周りが必死に支えようとしとんのにっ!
『待ってくれてる』って、こんなありがたい事ないんやで? 彰吾の代わりはおらんってそう言うてくれてるんやで?わかる?」
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俺の右手にあるスマホ。 そこには、休んでる間に残されたたくさんのメッセージがある。 未読のままのそこの一番上は陣さんで。 一人だけぶっちぎりの数のLINE。
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不意にそこをトンってタップすると、長文のLINEが毎日欠かさず送られて来てた。
日記みたいなそれは、俺が戻ってきた時に戸惑わないように…やと思う。
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ぎゅーって目の奥が熱くなる。
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「何もせんまま、岡山帰るん、ダメやない?
ダサイで、そんなん。
彰吾…、『俺の気持ちがお前にわかるか?』って明日美に言うたやん?
…ごめんな。わからんのんよ…誰にも。私も、修二も。
彰吾にしかわからん。辛さもキツさもわかってあげれん。
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でも、『寄り添いたい』って、『できる事は何でもしたい』って思ってるで。
彰吾の周りにおる人みんなそうやと思う」
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ぎゅって握ったスマホ。 抑えがきかんくて、どんどん涙が落ちてく。
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「それは彰吾が今まで頑張ってきた証拠やろ?…そのLINEさ、全部開けて見てみ?…みんな待ってくれてるって」
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『俺を待ってくれてる…』
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「円…俺、やれると思うか?」
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「高3の時、オーディション落ちたのに、それでもここまで意地でやって来たんやろ? その根性あるなら、やれるやろ。明日美にあぁ言われて、やれん彰吾じゃないやろ?」
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『できるかどうかやない、やるか、やらんか…か』
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「…ふふっ(笑)
そやな、『おもんない』って嫌やもんな(笑)」
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左手に持ったままの明日美からの手紙。 もう一回確認するように目をその部分にやった。
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『お前の言葉に、まんまと乗せられとくわ。
明日美…ありがとう』
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