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tomorrow〜scene29〜

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高架橋の上、そこに彼はいた。

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本人は無意識だと思う。

ビルの窓を鏡にして踊る人達を見ながら、彰吾の足は小さく動いて、右手はリズムをとるように、上下してた。

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『踊りたい』

そう言ってるようにしか見えんかった。

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『ダンスは、もういい』

そんなわけない。それが本音なわけない…。

何よりも、『踊ること』が大好きやったやん。

嫌いになんて、なれるわけないやん。

誰よりもそれは、私が知ってるはずやのに。

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本人が、がんばろうって思いさえすれば、サポートしてくれる人は大勢おる。 

病院の先生も、山田さんも、ランページのメンバーも。 

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それに、彼の復帰を望んでる人はきっとたくさんいる。

彼が踊るのを見たいと思う人が…。

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『彰吾じゃなきゃダメ』…彼はそんな人。

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『私と、岡山に帰ったらダメなんよ…』

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ガラスの前、踊ってる人たちを見てる彼の姿に、昔の自分が重なる。 

噴水の淵に座って、終電までの時間を過ごしてたあの頃。

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彰吾が踊ってると、わくわくした。 

ただ、楽しかった。 

…その時間が大好きやった。

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『あの時の私みたいな人が、彼の周りには沢山いる…』


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ポケットからスマホを取り出して、彰吾を呼び出すと、彼が電話に出るのがすぐそこに見える。

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「もしもし、彰吾。ちょっと社長に急に呼ばれて。 行かれんようになった、ごめん。えっと…社会保険とか厚生年金とかの話しやって…」

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「はっ?マジか…。 まぁしゃーないよな。保険とかの切り替えとかも、仕事辞めるってなったらせないかんもんな」

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「ん、ごめんな。田﨑さんにも『すいません』言うといて。 また顔出しますって」

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「わかった。気つけてな。帰りは絶対タクシーやで、ええな?」

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「ん、ありがと」

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目の前の地下鉄の階段を降りて、ちょうど到着した地下鉄に乗り込んだ。

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ピコン。

LINEの通知。

相手は、まさかの社長で。

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《ちょっと話しあるから…時間取ってくれるか?》

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《今ちょうど近くにいるんで、これから向かいます》

そう返事をしてスマホをしまった。

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こんな偶然。

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『神様なんていない』そう思った日もある。 

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でも…神様はいた。

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「お疲れ様です。さっきの連絡…」

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「どした?明日美」

私の顔を見ると、「いつかと同じみたいな顔して」って笑う。

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「とりあえず、入れ」

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「…はい」

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「いつ、岡山帰るって?」

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「…」

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「違うのか?」

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「岡山には帰りません…」

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「はっ?」

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「…でも、東京は、離れようと思います。…怖くて、無理で。すみません」

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「謝る事じゃないだろ」

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『何でお前が謝るの?』って、カウンターから出て来ると、私の前に立った社長。

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「行くとこないって、顔してるけど、違うか?」

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「…」

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「ほんと、お前のタイミングの良さったら、無敵だな(笑)」

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「…っ?」

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「明日美?お前が休んでた間、俺さ、久々に店に立ってたんだけど。『やっぱ、現場っていいなあ』って思ったんだよね」

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「…はい」

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「俺が選んだ洋服をさ、お客さんが気に入って買ってくれるって、ほんと何か原点だなって。で…」

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そう言うと、私の真ん前に立って、にこって笑う。

「店長、俺やるからさ。俺の代わりに買い付け側に回ってくれないか?

お前のセンスを信用してる。文句は言わない。全部、お前に任せる。

あっちに俺が滞在用に借りてるアパートあるから、そこに住めばいい」

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「えっ…シカゴ…ですか?」

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「岡山帰る前にダメ元で、明日美をスカウトしようと思ってさっき連絡したんだよ…そしたら、岡山には帰らないっていうし…」

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「…」

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「今のお前、あんときと同じ顔してる。死なれでもしたら、後味悪いんだって、だから」

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「…社長」

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「『助けて欲しい』って言うのは情けない事じゃない。逃げる事だって、ダメな事じゃない。

立ち止まる事も、長い人生の中であったっていい。な?」

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18才のあの時、出逢った時よりも年齢を重ねて、目の皺が深くなった社長。 鋭さは和らいで…その笑顔に、ぎゅってなった気持ちがゆっくり解けていく。 

あの日から確実に年月は流れてるのに、私はまだこの手に支えてもらってる。

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「でもな?明日美。

頑張れ。

逃げた先でいいから。立ち止まった後でいいから。 どっからでもいいからさ、頑張れよ。

『頑張った、私』って思える事が、お前を支えてくれるから。結局、自分が一番、自分を支えてやれるんだよ?」

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『誰かに支えてもらうんじゃない、自分で自分を…』

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「社長…無理ばっかり、すいません。私…行きます、シカゴ。行かせて下さい。」

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「ん。頼んだからな。お前のチョイス楽しみにしてる(笑)売れる服、な?」

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…『頑張る自分に、戻りたい』

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...next

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