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tomorrow〜scene27〜
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どうしても納得がいかんかった。
彼女が『別れたい』っていう理由。
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『やましょーさん、地元に帰るって』
『俺もさっきマネージャーが電話してるん聞いた。ちょっと色々考えたいからって言ってるって…』
『ランペ…ほんまに辞める気とかちゃうよな』
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明日美さんに別れを告げられた次の日のリハが始まる前、そんな話してるのが聞こえた。
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『一緒に帰るって事?』
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その日の仕事終わり。
深夜3時。
普段やったら絶対連絡したりせん時間やけど、もう自分で直接確認せずにはいられんかった。
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「もしもし、すいません、こんな時間に」
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「や…ええよ。普通に起きてたし」
電話の向こうの声は、穏やかやった。
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「近くまで来てるんですけど、やましょーさん出てこれたり…」
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「ん、わかった」
電話を切って大きく深呼吸。
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何をどっから聞いたらええんやろ…
何もまとまらないまま、その人の姿が近づいて来た。
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彰吾 side
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俺にわざわざ会いに来た。
それは、電話で済ませられるような話しじゃないって事。
初日が終わったばっかり。
今週末には福岡でのライブ。そんな大事な時なのに…。
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上着を着てニットキャップを被って寒空の中を、約束の場所へと急いだ。
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何でこんなとこに公園なんてあるん?みたいなビルの隙間にある、砂場とブランコだけのその場所。
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小さい街灯に凭れてスマホを触ってる壱馬が目に入った。
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「おまたせ」
俺のその声にはっと顔をあげると、持ってたそれをポケットにしまう。
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「すいません、こんな時間に」
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「ええよ。全然…今帰りか?」
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「…はい」
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「週末、福岡やもんな」
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マスク越しに見える壱馬の目元は、疲れが滲んでた。
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『俺のせい…』
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「はい…」って俯きがちに頷くと、意を決したように顔をあげた。
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「岡山帰るって…」
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「ん…明日美から聞いたんか?」
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「昨日、逢いに行ったんです。そしたら『岡山帰るから、別れて欲しいって』。理由もよぉわからんくて…」
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「聞いてないんか?犯人が…あいつのストーカー、保釈されるって…」
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「えっ…」
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「『助けて』って泣いとった。俺がかけつけたら、店の隅っこで小さくなって、震えとった。 『怖い』 って。
…俺より先に、壱馬のとこに連絡したと思うで?すごい雨が降ってた日…」
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「っ…連絡来てました。何回か…」
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「『何回も!』やろが!それっ!!」
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咄嗟に大声が出た。 何回も明日美は、壱馬に助けを求めたはず。
…俺よりも先に。
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『壱馬に助けて欲しかった…』
やろうな…明日美は。
俺やなかった…。
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「そんな風にあいつが連絡してきた事、今まであったか?明日美がそんな事するやつかどうか、お前わからんか?!その状況がどんだけっ!」
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壱馬が悪いわけじゃない…
頭ではわかるのに、感情のままぶつけるしかできんかった。
あの日の事が、今でも頭から離れていかん。
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店の隅でスマホ握ったまま、震えてた。
「怖い…」って。
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俺のでかい声に、はっとした壱馬の顔を見て、気づく。
そんな状況にしたのは、自分やって事。
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俺がステージに立てる状況やったら、あの時駆けつけたんは、壱馬やった…絶対。
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「…ごめん。俺のせいやもんな。 俺が抜けたから、大変なんやもんな。お前を責める事言うんは、違うよな…」
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「やっ…。あの…えっと…」
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「ん?」
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「…やましょーさん…一緒に帰るんですか?」
壱馬が一番聞きたかったんは、多分それ。
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「そうや」
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「それって…」
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「別れたんなら、俺がどう出ようと、お前に関係ないやろ?」
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「っ…」
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何も言えずにおる壱馬に『じゃあ、帰るわ』って背を向けた。
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最低なやつって思われた方がいい。
嫌われた方が、ラクやん。
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「やましょーさん!」
でっかい声で呼ばれて、自然に止まった足。
何言われるんやって、正直気が気じゃなかった。
やのに…。
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「みんな、待ってます。 メンバーも、先輩も、後輩も…ファンの子も。 もちろん、俺やって。 ずっと待ってますから…」
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『何でなんよ…何でお前は今それが言えるんよ…』
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ふーって大きく息を吐いて、振り返らないまま、再び歩き始めた。
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嫌いやって…
むかつくって…
そう思って欲しかった。
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...next
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明日はお休みします。himawanco
