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tomorrow〜scene5〜
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「壱馬?リハが始まったらなかなか行けんけ、3人でたかひろさんの店行くか」
そう提案したんは俺やった。
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「いいっすね。何気に久々ですよね。近くでやっとるかな…」
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「ちょっ、電話してみるけん。壱馬は明日美に連絡しといて」
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「はい。俺、取材1本入ってるんで、先2人で行っといてもらっていいですか?」
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「ん、わかった」
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1時間位遅れてくるっていう壱馬。
俺と明日美はたかひろさんの店で待ち合わせ。
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「お久しぶりです」
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暖簾をくぐりながら、声をかけると「今日は貸し切りですけど?」って声と共に俺の顔を見てにやっと笑う。
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俺らがゆっくり酒飲んで、おしゃべりできるようにって『貸し切り』にしてくれた、たかひろさん。
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「すいません…『貸し切り』にしてもらって」
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「まぁ、その分、チャージ頂きますけど?(笑)最近、儲かってるんでしょ?
ちょこちょこ色んなとこで見るよ?やまちゃん」
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「まぁ…」
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「でも、壱馬くんの方がよく見るけどね。こないだ本屋さん行ったら、知ってるイケメンが俺の事じっと見てて『はっ?』ってなったからね。『うわっ、表紙じゃん!』って」
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「あぁ…まぁ、イケメンなんで、うちのボーカル」
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「でも、思ったんだよね『これ、俺でもいけるかもな』って(笑)」
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「いけません(笑)」
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「うわっ、即答(笑)」
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「ふふっ」
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「先、飲んで待ってる?」
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「明日美…もうちょっとで来るんで、待ってます。あの…今日、オレンジジュース…」
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「しっかり冷えてます」
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「さすがです(笑)」
2人が付き合い始めたら、俺はやっぱり妬いたりするんかな…って思ってたけど、そんな心配はいらなくて。
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それは、明日美が俺に対して少しも態度が変わらないからやと思う。 そして、明日美が幸せなんが手にとるようにわかるから。
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歌番組の放送があった後は、必ずLINEが来る。
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《コメントする時、何か不自然に笑うん、キモイけんやめたら?》って来た時はぶち切れそうになったっけ。
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こっちは慣れん事やってるんや。どいつもこいつも、喋るんが苦手な、うちのグループ。
陣さんにコメントさせたら、それはそれで事故りそうで怖いし。
俺やってほんまはそんな得意じゃないけ。笑顔も引きつるわ!
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でも、その後《ダンスはめっちゃよかったで。誰よりも彰吾がよかった!かっこいい!》 ってきて。
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素直な感想しか言わんってわかっとるから、それがめっちゃ嬉しくて。 
《もちろん壱馬くんは別でやで》ってその後、オチみたいに最後のLINEが来る。
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『ん…これでええんよ。俺と明日美はこれでええ』
 本心で今はそう思える。
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深夜まで撮影が長引いた時、みんなの輪を抜けてこっそり外で電話してる壱馬をよく見かける。
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ふふって笑いながら、足元の石を蹴ってる壱馬の横顔は、ドラマの1シーンみたいに多幸感に溢れてて。
その電話の相手が明日美やってわかる。 
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明日美もきっと同じ顔して電話してるって思ったら、『大切な2人が幸せ』ってこんなに自分も幸せになれるんやって事をこの年になって初めて知った。
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明日美 side
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仕事が休みだった今日は、新しいアパートを探しに社長が紹介してくれた不動産やさんに行ってきた。
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今住んでるとこは、岡山から上京して何の保証もない私に社長が用意してくれた思い入れのある部屋。
家賃も立地を考えたら破格だし。
でも最近の色々を考えたらそんな事は言ってられなくて。
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社長に相談したら「何でもっと早く言わなかった!」って怒られたのが昨日。 
「すぐに新しいとこ探すぞ!俺も行くから」って今日不動産やさんの予約をとりつけてくれた。
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「社長からのオーダー通りの場所、こちらでピックアップしておきました」 不動産屋さんに着くとすぐに私と社長の目の前に並べられた物件情報。
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家賃も今とそれほど変わらず、立地は店から徒歩圏内。 
「店の近くに住んでもらえば、終電気にせず仕事してもらえるから」って言ってたけど、 『電車は怖いです』って私の希望を汲んでくれたんだと思う。
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いくつか物件を見て回ったとこで壱馬くんからのお誘い。 田﨑さんのお店で、彰吾と3人でのごはん。
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「彼氏か?」
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「…はい」
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「そっか…幸せそうで何よりだな。電車のソイツの話し…ちゃんとしたのか?」
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「や…してないです。引っ越したらもう大丈夫だと思うし」
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「何かあったら、すぐに言えよ。俺にでも、彼氏にでも。いいな?」
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「はい」
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用意してもらった物件のうち、一つを仮押さえしてもらってその日は終了。 社長と別れて、彰吾と壱馬くんとの約束の場所へと急いだ。
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3人でご飯を食べるのも久しぶりで。 田﨑さんとの4人で過ごす時間も大好きやったから、地下鉄を降りて階段を上がるのも自然に早足に。 
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「何で、引っ越すんですか?」
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「えっ…」
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田﨑さんのお店が見えた辺り。
後ろから不意にかけられた声に、体が固まる。
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…その声に、聞き覚えがあった。
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…next
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