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if…〜scene31〜
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「こんばんは」
田﨑さんにそう挨拶をすると、隣にすっと座って、俺の方を向いた。
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「お待たせ…しました」
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「…ん。体調悪ない?ちゃんとご飯食べてたん?」
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「ん……大丈夫。心配してくれてありがと」
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何をどこから…って思ってたら、「はい、どうぞ」って瓶に入ったオレンジジュース二本が目の前に。
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「えっ…」
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「これはサービスではないからね。ちゃんと最後に支払い頼むね、彼氏」 って笑う。
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「ふふっ。押し売りやんそれ(笑)」
そう言いながら明日美さんが、笑った。
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俺、最近ずっと見てなかったから、彼女の笑った顔。
やっぱ、好きやんって、今更そんな事を思ったり。
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「懐かしい、このオレンジジュース。 近くのうどん屋さんにあったんよ。子供の頃、あったよね?…ね、壱馬くん」
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「ん、あったあった。俺んちの近くのお好み焼き屋さんにもあったわ。 オレンジとサイダー」
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「一緒!栓抜きがさ、冷蔵庫の横にぶら下がってたよね?子供の時、開けれんくて、知らんおっちゃんが聞けてくれたんよ(笑)」
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こんな小さい事で、ふわっと優しい空気感に変わる。 その感じがほんま好きで。
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「はいお待たせ。こっちはサービスの卵入り」
俺らの前におかれた味玉の乗ったラーメン。
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「いただきます」
そこからは、話しをする事はなくラーメンに集中。
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「おいしかった!ほんま田﨑さんのラーメンおいしい」
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「な、旨いよな」
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思ったよりも元気そうでちょっとほっとして。 足元に置いてあった鞄の中から取り出したクッキーの箱。
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「あっ!ムーンライト!」
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「ん、ちょっと箱潰れてもうたけど、中身には支障はないはずやから。前さ、2箱買おうって言うてたやん?とりあえず1個持ってきた」
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「覚えとったん?」
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「ん…」
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「開けてええ?」
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「…ん」
嬉しそうに箱を開けると、「田﨑さんも、どうぞ。おいしいけ、ほんまに」って笑う。
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「ありがと。懐かしいね、これ。マリーのお友達だよね?このクッキー。じゃ、いただきます」
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「そうそう!あれもおいしいですよね?」
ラーメンを食べた後やのに、おいしそうにクッキーを頬張る横顔。
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「ん、やっぱりこれ!おいしー」って目を大きくする。
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「そんな喜ぶ?普通に売っとるやん」
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「普通に売ってるかどうかは関係ないんよ。
誰がどんな風に思うとかも関係ない。私にとって特別なんやって」
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『俺、何を迷ってたんやろ…』
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こんなに『大好きや』って思える人。
一生出逢えないと思う。
そこにどんな根拠があるわけじゃない。
でも、『好き』それに間違いはない。
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『それが特別かどうか。それを決めるのは自分』
そんな彼女が俺は好き。
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「ごちそうさまでした、おいしかったです。」
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「またおいでね。まぁ、見つかればだけど(笑)」
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「はい、絶対見つけます。明日美さん?先ちょっと行っとって。支払いしとくから」
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「ん?…ん、わかった。ごちそうさま」
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椅子から立ち上がると、大切そうにクッキーの箱を両手で持って、公園の街灯の下へと歩いてく。
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「田﨑さん、 オレンジジュースの下り…何か色々どんぴしゃすぎて、ちょっと怖い位です(笑)」
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「ふふっ(笑)幸運のラーメン屋とでも、呼んでくれ」
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「…俺、『好きや』って言うてきます。 何かもう、迷ってたん、なくなったんで」
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「そっか…。じゃあ、行ってこい!」
おつりを掌に乗せると、ぎゅっと俺の手を握った。
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「成功しても、失敗しても…『伝えた!』って事が大事だから。
まぁ、失敗したら、帰ってこい。今日はここでずっといるから。これ開けてもいいから!」って棚の下から出してきた一升瓶。
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そんな飲めんやろ…(笑)って思いながらも田﨑さんのその言葉は嬉しかった。
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「行ってきます!」
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月明かりに浮かぶ彼女の背中を、駆け足でおっかけた…。
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…next
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