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if…〜scene10〜
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その日から、どんどん積もってく彼女と過ごす時間。
それに伴って増えてく…今まで知らんかった色、温度。 
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2学期になって席が離れてしまったら、別に話す事もない。 特別近づこうともせんかった。
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相変わらず年上、年下関係なく、告白されては断ってを繰り返して。って聞いてる。 
それを聞いて『やろな』って…どっか思ってた。
明日美は、その辺の男じゃ…って思いが漠然とあって。
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彼女がバイトの帰りにたった数分。
俺が駅前で踊ってるのを見て、「お疲れ」って手を振ってくれる。 
「気ぃつけてな」 彼女の後ろ姿にそう声をかける毎日。
 自分のいる場所が、他のやつらよりも、『特別なとこ』におる気がしてたも事実。

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3年の途中。 
俺は憧れてた事務所のオーディションに挑戦して、まぁ見事に玉砕。 
地元ではそこそこ有名やったし、自信もあった。 
やのに…。 
明らかにレベルの違いをまざまざと見せつけられたでしかなかった。
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地元に戻ってきてから、『くそっ、やったるわ』って気にはなれんで、『なんでやねん』って逆ギレに近い気分。
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「合格したるけ、余裕じゃ」って周りに言うた手前、学校に行く気にもなれんかった。
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ベットで寝っ転がってると、アホほどLINEが一気に鳴り始めた。 送り先は明日美で。
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≪オーディション、あかんかったって?修二から聞いた≫
≪凹んでるん?>
≪一発目でいけるとか思てたん?≫
≪いけるわけないやん?どんだけでっかい会社やと思っとるんよ》
≪それで学校休んどるとかさ、ダサっ≫
≪まず、彰吾はさ、見た目がさ…≫
≪日焼けして、鍛えてからいきーよ≫
≪そんなんで、ほんまにいけるとか思ってた?ないやろ…≫
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結構な言われように、イラっとして思わず鳴らしたスマホ。
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「もしもし?」
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「明日美!お前なっ!」
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「何しよんよ、彰吾。学校さぼって」
「そんな気分やない!」

「今日の夜は?…駅、おる?」
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「じゃけ、そんな気分やない!って言うとろうが! デリカシーとかないんか、お前は!」
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もう、八つ当たりでしかないってわかるのに、止まらんかった。
悔しさも、不甲斐なさも全部彼女に向けてた。
急に静かになって、『やばっ』って思った瞬間。
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「そ、わかった。もうええわ。踊らん彰吾、おもんないし」
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 「は?」
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『おもんない』って、何やねんそれ。
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「『これしかない』って踊っとる彰吾がよかったのにっ。 夢があるんが、羨ましかったのに… 頑張ってるん、ええなって思ったのに。 もう、ええ!踊らん彰吾はおもんない!」
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ぶちって切られた電話。 真っ暗になった液晶。
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「何やねん、おもんない…って」
そう呟く俺の頭に過る記憶。
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「俺な、『おもろいな』って事して生きていきたいんよ。自分自身も、周りから見ても『おもろいな』 って事をしたいんよ』
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将来の夢…。 周りに打ち明けるには、漠然としすぎてて、ずっと言葉にはしてこなかった。 
でも、一度だけ。
それを打ち明けたのは彼女にだった。
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明日美のバイトが遅くなって、最終を逃したその日。始発まで、水の止まった噴水の縁に腰掛けて、朝まで2人で色んな話をした。
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「ええやん。それええよ。めっちゃいい!」
漠然としたそんな俺の言葉に、あほみたいにテンションあがってて。 
でも、何かそれがむっちゃ嬉しかった。
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「おもんないんやって、今の俺…」
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天井を見上げて鼻でそう笑う。
自分が一番ダサいって思ってた類の人間が、今の自分な気がして、ベットから勢いよく起き上がった。
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「行くか…ん、いこっ」
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開いたクローゼットの中から、いつもの洋服を来て、いつものスニーカーを履いて。 
玄関のドアを思いっきり開けた。
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この時の明日美とのやりとりがなかったら、きっと今の俺はいないって大げさじゃなくそう思う。
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『オモロイって思える事を』
それは今も俺の芯となる部分やから。
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…next
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明日はお休みです。 himawanco