if…〜scene9〜
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5年前。

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高校時代、クラスに女子は2人。 おかんみたいな存在の円と、学年のマドンナ的存在の明日美。
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『何で機械科?』って思えるような見た目。
肩より長い髪。折れそうな位の細くて白い腕。長い指。
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「めっちゃ美人やん」
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『誰が明日美を彼女にできるか』みたいな話しで入学した頃、相当盛り上がった。 
俺の周りにおるやつ、一通りみんなフラれてったし。『何かキツそうな女』俺はそんなイメージやった。
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高校一年の7月。 期末テスト終わりのタイミングの席替えの時、俺の隣に彼女は座った。
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ほんま、『女子』が隣に座るって事の重大さをこの時に身をもって知る。 
先月まで隣に座ってたんは、柔道で岡山県代表になる位のでっかいやつ。もちろん悪いやつではないけど、正直、暑いし、いい匂いとは言い難い。
こいつと明日美では全然違う。
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「よろしくねっ」
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俺も色白なんには自信あったけど、そんなん比べもんにならん位の透き通る肌の白さ。 
 ふわっとスカートをもちあげて座って、「暑いよねー」って髪をまとめる仕草と同時に香る、香水なんか洗剤なんかわからん、いい香り。
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席替えしてすぐの古文の授業中、隣を見ると、小さいクッションを机の上に出して、本気でお昼寝。 次の世界史の時には、でっかいおにぎりを2個食べてる。
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「本藤!」
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先生が近づいてきたタイミングで、手に持ってたおにぎりを俺の右手に握らせて、悪い顔して笑った。
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「はっ?! 本藤!」
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「共犯やけんね、山本も(笑)」
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その日の授業の後、2人で怒られて反省文400字。
マジなんなんよ、これ。
放課後の教室に並んで、原稿用紙へと向かう。
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『反省文   本藤明日美』
そう書いてあるのを見て、ふっと思う。
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「明日美ってええ名前よな」
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「何?口説いとる?」
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「ちゃうわ、あほか」
そう…。そういうんちゃう。
ただ、単純にそこに並んだ漢字がええなって思った。
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「山本は…名前なんやっけ?」
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「はっ?知らんの?俺の名前」
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「ごめん、知らんわ」
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「マジで?…彰吾」
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「しょーごな。ん、わかった!覚えた!」
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「すぐ忘れるんやろ、どうせ」
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「えっ?(笑)」
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「図星じゃろが、それ」
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「ふふっ。ほら、はよこれ書いて帰ろうや。な?」
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「お前のせいやからな、これ書くハメになったん。そもそも」
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「細かい事気にせんの、男のくせに。暇やろ?どうせ。私この後バイトやけん急ぐんやって」
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「バイト?」
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「ん、東口の居酒屋。高島屋の裏んとこ」
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「そうなんや」
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「ん、終電までがっつり働いとるんよ」
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「そうなん?俺な、噴水の前のガラスのとこあるやん?あっこで踊ってるんで?夜」
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「そうなん?今日もおる?」
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「ん、おるよ」
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「じゃあ帰りに、見に行ってもええ?バイトの後」
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「ん。ええよ」
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こんなにちゃんと話したんは初めて。
でも、不思議と緊張っていうのもないし、ドキドキっていうのもなんか違う。
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「できたっ。じゃあ、お先っ」
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「おいっ、えっ、ちょっ待ってや」
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「待たんー」
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鞄を持ち上げると「ばいばい!」って長い髪をふわふわってさせて走ってく。
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『ほんまに待ってはくれんのんや(笑)』
こういうんて、ドラマとか映画やったら、それでも待ってくれてるのがデフォルトやん? って思ってたら、ほんまにおらん。 
なんかそれも彼女っぽくて、『そんなもんか』って笑ってしまう。
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適当に反省文を済ませて一旦帰宅した後、21時に駅へと向かった。
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21時位から、終電までここで過ごす時間が俺にとっての一番大切にしてるもの。 
踊ってて、なんか『ちょっとちゃうな』って思ったらガラスに映らなくなる始発の時間まで…なんて事もあるある。 
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この時の俺にダンス以外に『これ』ってもんなんてなくて。
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ガラスに映る自分が、そこで過ごす自分が全てで。 未来なんてぼんやりとすら象ってなかった。
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「しょーご!!」
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23時50分。
最終の8分前。 ガラスに映る俺の後ろ、大きく手を振ってる姿。
 『覚えてるやん』 
同じクラスやのに、知らんかった俺の名前。 
今日の数分で、ちゃんと覚えたらしい。
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「今から帰るんか?」
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「ん!」 
大きく頷く姿に振り返って、「きぃつけて帰れや」って手を上げると、にっこり笑う姿と共に、24時までしか拭きあがらない噴水がその日のラストのしぶきを上げた。 
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…その日のその景色を、俺は今でもはっきりと覚えてる。 
オレンジの光に拭きあがる水しぶき、その向こうに見える明日美の笑顔。
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『好き』なんて言葉にできる感情やないんよ。
 …ただ、今まで感じたことのない、そんな感情をどう現したらよくわからんで、その日、 朝まで必死に踊ってた。
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「しょーご、今日なんかめっちゃええやん」 
隣で踊る友達にそう言われた。
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「そか?ん、なんか俺もそんな気するわ」
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メンタル直結な俺。
あほらし…って思いながらも、小さく微笑む自分がおった。
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