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simple〜last scene〜
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宮古島での3泊4日。
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目が覚めたら、『おはよ』って言い合える距離に彼女がいる。 
気持ちよさげに寝てるんやから、起こしたらあかんって思うのに、触れたくなる頬…唇。
静かに手を添えて、唇を重ねると、ゆっくり瞼が開く。
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『あっ、失敗した…』
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「…ん?」
その柔らかい返事に、愛しさが増してく。
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「來夢…好きや。…ん。めっちゃ好き」
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「ん?何?どしたの(笑)」
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「好きやなぁって思って。今、噛みしめてたんやけど、口に出てしもたんや」
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「ん、私も(笑)…好き」
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恥ずかしそうに俺の胸元に顔を埋めると、「嬉しいよ、壱馬」って、声が振動になって伝わってくる。 
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「朝ごはん、作ろうかな」
腕の中から抜け出ようとする彼女を「いかんで」ってぎゅって抱き寄せて。
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『ずっとこんな風に…』
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來夢side
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「ふふっ(笑)おなかすいたでしょ?」
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「すいてへん」
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小さい子が駄々をこねるみたいに、「まだやもん」って。
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「朝ごはん、フレンチトーストだよ?」
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「えっ?」
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パって体を一瞬離すと、パチパチって瞬き。
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「おいしいよ?…おなか、すいてるでしょ?」
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「……ん、すいてる」
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そっと腕を解くと、ふぅってちょっと悲しそうな溜息。 俯くその顔、そっと触れた唇。
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「手伝ってくれる?」
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「もちろん」
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どうやらご機嫌は持ち直したらしい。 
広いキッチンでフルーツをカットして、フレンチトーストの隣に添えて。 
サラダとコーヒー。
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朝食を食べる習慣がない私だけど、不思議と彼といると、ちゃんと朝におなかがすいて目が覚める。
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『こんな普通が、私にも…』
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壱馬side
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「そろそろ行くか?」
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「ん」
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夕焼けの時間に合わせて向かったのは、3日間毎日通った海。
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「ほんま冬とか思えん位やったな」
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「そうだね。上着ずっとスーツケースの中だった」
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「東京帰ったらビビるで?風邪ひかんようにせな」
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「ほんとだね」
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緩やかな坂を降りてくと、潮の香と、優しい風が吹き抜ける。 見えてくる真っ白な砂浜と、夕日に照らされてキラキラ光る海。
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サンダルを手に持って、波打ち際まで近づいてって並んで座った。
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「壱馬、ありがとう。連れてきてくれて」
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「ん…また、来よな。約束」
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「ん」
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隣の彼女の瞳に映るキラキラがめっちゃキレイで、彼女を後ろから抱きしめるように座りなおした。
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髪から香るのは潮の香。
いつもみたいな甘い香じゃないけど、それもまたよくて。
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『よし、今』
ポケットから取り出して、後ろから彼女の目の前でそれを揺らした。
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「えっ…」
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「サンキャッチャー、幸せを掴むって意味なんやって。來夢に…んー、サプライズ?(笑)」
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俺の腕を解いて、向き合うように座り直した彼女の瞳からすーって涙が落ちてく。
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「迷信かもしれん。これも、シーサーやって。 でもな、それでもええやん。これ見る度に、今を『楽しかったな』ってそう思い出すやろ?」
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「…ん」
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「『今のこの幸せを思い出せる』…俺はそれを來夢にあげたい」
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「ん…ありがと」
『楽しかった…ほんとに』そう言って涙を拭いながら優しく笑う彼女をぎゅーって抱きしめた。
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「守りたいな。
…ずっと、このままを守りたい」
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 呟くように聞こえたそのセリフに、抱きしめてた腕にぐっと力を込めた。
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「大丈夫や…ずっと一緒におる。ずっとや」
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ただシンプルに。
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 『大切な人とずっと一緒にいたい』
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彼女の『守りたい』その意味を…。
この時の俺は、まだ知らんかった。
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simple 
...fin.

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このタイトルでのお話はここまでです。
後半、ちょっとお話の内容しんどいかも…で、先に謝ります(笑)しばし、お待ち下さいませ。

 いつも私のお話を読んでくれる皆さんにたくさんの『ありがとう』を。himawanco