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simple〜scene2〜
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「なぁ、壱馬。ケーキ…買ってく?」
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「あぁ…ええかもな、それ。
王道すぎて意外と誰も気づいてないかもやしな、そこ」
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その日は陣さんの誕生日。
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『俺んち集合』って、主役の本人からの招集がかかって、俺と北人は一緒に陣さんちに向かってた。
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「みんな、持ちよりで来てや」
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大学生かよ!みたいなその誕生日会。
だいぶ奮発していい酒買って…後はなんやろなぁって思いながら2人で歩いてた視線の先。
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「あそこ!」
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北人が指さした通りの向こう側。
こじんまりとして、アンティーク調の外観。
店の外、結構な量のお客さんが並んでて。
平日のこんな時間に外まで並んでる。
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「こないださ、翔吾と2人で誕生日会した時に、2人で買って食べたんだ。ケーキもおいしいんだけど、シュークリームが本当においしくてさ」
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「お前ら、何か女子っぽい事しとんな」
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「(笑)そんな、褒めんなって」
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「褒めてへんわ(笑)」
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そんなやりとりをしながら列の一番後ろに並んで。 小さい正方形の窓から見えるお店の真ん中にあるショーケース。
ほんと、そんなんどうやって作るん?みたいなキレイなケーキがいっぱい並んでた。
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どれもキラキラして見えて…。
なんやろ…、めっちゃ幸せな気分になる。
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それは、俺だけじゃなくて、その場にいる人みんな一緒みたいで。
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並んでても、どっかとっても楽しそうで。
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…幸せそうに見えた。
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『何かいいな、こういうの』ってふわって思うそんな瞬間。
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「まだ飲もうって…なぁって!壱馬ぁ!」
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「はいはい、飲みます、飲むんで(笑)」
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もうぐだぐだの陣さんが俺の隣に座ると、右手に持ってるウイスキーの瓶。
俺が持ってきたやつ。高いんやで?それ。
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もうそんだけ飲んでたら、中身ウーロン茶でもごまかせんじゃね?って思う位で。
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陣さんの部屋に残るメンツ。
俺入れて6人。 全員逃げ遅れたヤツ。
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まぁ、こうなったら限界まで付き合うかってなる。 誕生日やしな…。
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「あー!何か旨そうなんある!」
冷蔵庫から陣さんが出してきた白い箱。
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「あっ、それ…何か有名なお店らしくて…なぁ、ほくっ」
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振り返った先にいるはずのそいつは、逃げ遅れた慎と一緒にソファの上で眠ってた。
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「誕生日ってやっぱりケーキかなって。北人となって。…で」
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そこまで言い切る前に手づかみで口に運ばれてったショートケーキ。
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「んまっ。えっ?こんな旨いケーキ初めて食べたって俺!人生史上最高点、いや、マジで」
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いや、そんな酔うてて味なんてわからんやんな?って思いながら、箱の中にあるシュークリームに手を伸ばした。
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「陣さん、これ、俺食べてもええですか?」
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「ん、ええよ」
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有名って北人言うてたしな…ってずっと気になってた。
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小ぶりだけど持ち上げるとずっしり重たくて、キレイに白い粉?これ砂糖か?
白い粉で覆われたそれを一口。
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「んまっ」
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ん…お世辞でもなく、俺も今まで生きてきた中で一番おいしいと思えるシュークリームに出逢った。
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「マジで?じゃあ、俺にも」
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って俺の指ごと残りは陣さんの口の中におさまった。
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「陣さん、指!!俺の指!」
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「ほんまや、人生最高得点のシュークリームやな、これ!」
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指、いかれるかと思ったわ、危なっ。
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まぁ、確かに俺もめっちゃ旨いと思った。
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「また食べたいな」って素直にそう思える。
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優しくて、どっか懐かしくて。
作ってる人の思いが感じられる、そんな味。
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…next
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