your side〜last scene〜




「ただいま」

「あっ、おかえり」

「どしたん? 先に飲んでるん珍しい」


ベランダで一人外を眺めて缶ビールを飲んでた來夢。


「ん?ごめん。月がキレイで、何か飲みたくなった」

そう言って「カズマも飲むでしょ?」 って渡されたビール。



「かんぱい」

「お疲れ様」

「ん」

2人で見上げた月は、糸みたいに、か細い三日月で。
でも、静かに凛とした光を放ってた。



「…カズマ?」

「ん?」

「私もね... 夢が叶いそうだったの」



今まで自分の事なんて何一口にしなかった來夢が、ゆっくり口を開いてポツポツ話し出した。



「勉強して、バイトしてお金ためて、同じ夢を追いかける彼に出会って、2人で同じ方を向いてがんばっていくんだって、思ってた。

…でも、そう思ってたのは、私だけだったみたい」





暗闇の中、すーっと伸ばした腕。

「簡単に零れ落ちて、なくなった」

涙をこぼすわけでもなく、ただ、少し微笑んで。





「だから、この名前はキライなの」



「來夢?…ここに、ずっとおったらええ。…俺のそばにおったらええよ。
…おって頼むから」



もう、お前がおらんかったら無理や。 夢なんておっかけんでもええから。

そう願う俺の頬を両手でそっと包むと、優しく重なった唇。

そのキスの意味は...。




静かに光を放つ月の光が差し込む中。
初めて彼女を抱いた日と同じようなそんな月夜。



「カズマ...名前、呼んで?もっと….」



何度も何度も呼んだ。

「來夢...愛してる。來夢...來夢っ…..」

「うれしい... 愛してるよ、カズマ...」



初めて見せた涙。
その涙は嬉しいからやと俺は信じるで?そう信じさせて?



もう、明日なんて永遠に来なければいい...。




周りの明るさと共に、だんだんとはっきりしてくる意識。
隣にもうぬくもりは失くなってて。

とうとう来たかってそう思った。



フラフラっとベットを出ると、リビングのテーブルの上に丁寧に畳まれて置かれた俺の服。部屋の鍵。

その隣に置かれた真っ白な紙には、彼女からのメッセージ。







「読んだら泣くやつや」

ふっと笑ってしまう。








カズマへ
あんなに嫌いだった名前、あなたに呼んでもらう度に好きになれた。
もう一度、この名前を生きてみようって思う。

どこにいても、カズマが夢を追う姿を応援しています。 ありがとう。   來夢





「あほ...。どこにいてもじゃなくて、そばにおってよ...」


俺、こんなに泣くんやなって、自分でもひくくらい、涙が止まらんくて。


まだほんのり彼女の香りが残る部屋。
ただ、ポタポタ床に落ちる涙を見つめてた。


いつか来るだろうって思ってた終わりは、あっけなくやってきて。
何も持たずにやってきた彼女は、ほんまに何も残していかんかった。
まるで、夢を見てた、そんな感じ。



でも俺の耳には、來夢が俺を呼ぶ声がいつまでも響いてた。





たった数日。
けれど一生忘れられない、そんな恋をした。









your side
…fin






「結末はハッピーエンド」それは私の中にあるこだわりで。今まで描いてきた中、生きてるのに、唯一離れ離れになった2人が、このカップルでした。
3年越し、やっぱり幸せにしてあげたくて、新作はこの2人の3年後からのお話を描く事に決めました。
だいぶ設定も重めですが、お付き合い下さいませ。
新作開始までもうちょい時間を…。

いつも私のお話を読んでくれるみんなにたくさんの「ありがとう」を。 himawanco