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sweet home〜scene9〜
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茜さんとの2人きりの時間の終わり。
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それがやって来たのは、東京でも雪が舞う…そんな日やった。
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寂しいかな…って勝手に思ってた。
『2人で過ごす時間がよかったかな』…とか思ったりするんかなって。
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そんな俺はバカやったなって、今、はっきり言える。
家族が増える…、めっちゃ楽しくて…ほんま。
とりあえず…我が子って、こんな破壊力抜群な可愛さなんやって実感中。
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無事に生まれて、まぁ、漫画みたいなバタバタした日常が始まって。
ケンカすらする時間もないくらい、2人で、チビ壱馬に振り回されるそんな何ヵ月が、あっというまに過ぎてった。
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「ただいま」
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玄関を開けると同時に、高速なハイハイでやってくる息子。
俺がしゃがむと両手を俺へとまっすぐ伸ばす。
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「ただいま、あやと」
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抱き上げて視線を合わせると、キャッキャッって笑う。
至福の時間。
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女の子がいいなんて言うて、ほんまごめん。
めっちゃかわいいやん、男の子。
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「おかえり、壱馬くん」
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「ん、ただいま」
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『川村礼人(あやと)』そう名前をつけたのは俺。
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それは生まれる少し前。
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「あやと?」

「ん、『礼』(れい)に『人』(ひと)で、あやと。 周りにいてくれる人に感謝を忘れない人にって、思って」
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『私がつけたかったのに』って茜さんに言われるかなって思ってたけど 「いいね、それ!いいよ、壱馬くん!」って大絶賛されて、ちょっと拍子抜け。
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男の子ってわかって、ずっと考えてた名前。
ネットも、本も、茜さんと2人で神社にも行ってきた。
あんなに漢字を見る事、もう二度と俺の人生にはない。
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だって…
『幸せになって欲しい』その思いは当然やん。
名前一つで、その人の人生が決まるとかそこまでは思わんけど。
でもいつか、本人に『大切やって思うから、お父さんとお母さんで必死に考えたんやで』 ってそう伝えたかったから。
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※※
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「なぁ、茜さん?礼人さ…スポーツ選手向きやと思わへん?こんなハイハイ早い赤ちゃん、 他にいてないって」
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「ふふっ(笑)親ばかな事言ってる」
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「やってさぁ…」
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「まぁ、私の遺伝子半分って考えたら、確実に走るのは速いよ?後、球技もそこそこセンスあるはず!」
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「そっか…じゃあ野球やな、やっぱり。明日ボール買って帰ってくるわ」
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「はいはい、どうぞ。」
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明らかに呆れてるその『はいはい』
いいって事やんな。明日も帰りにトイザらスやな。
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親ばか?それの何が悪い?って思う。
こんなかわいいのに、バカになって当然やん。
ほんま許されるならずっと一緒におりたい。
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茜 side
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「あやとーお風呂いくで一。おふろ♪おふろ♪ 今日あひるさん買ってきたからなぁ、これぷかぷかさせよな」
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荷物を置いて手を洗うと、片手に礼人を抱いて嬉しそうにお風呂に向かう壱馬くん。
右手には、アヒルさんが握られてる。
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ほんと『お母さんよりもお母さんな、お父さん』
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お風呂なんて、私、数える位しか一緒に入ってないかも。

「かわいいなぁ、ほんまかわいい」って生まれてからずーっと言ってるし。
礼人が生まれて、バタバタな中でも私がずっと笑ってられたのは、壱馬くんが旦那さんだったからで。
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何度もケンカの種になった趣味のゲームも封印中。
『ゲームしよる場合ちゃうから!』って。
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毎日何枚も写真を撮っては「これええわ、過去一」って毎日『過去一』が更新されていく。
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お風呂から出たらちゃんと洋服を着せてくれて、2人で楽しそうにコロコロして。 表情緩みっぱなし。
ブックスタンドに飾ってある雑誌の表紙の壱馬くんとは、ん、別人。
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『チビ壱馬と壱馬くんで私をとりあって欲しい』そんな私の願望は、儚く散った。
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なんなら、礼人と、私で『壱馬くんを取り合う』って、その構図に変わった。
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ゆっくりお風呂を済ませて、髪も乾かしてからリビングに戻ると、もう2人の姿はそこにな くて。
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細く扉の開いた寝室を覗くと、壱馬くんが優しい声で歌を歌いながらゆらゆら揺れてた。
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礼人に視線を落とすその横顔が、ほんと優しくて。
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なんだろ…。
その光景も、その声も
…幸せすぎて泣きそうになった。

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…next
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「幸せすぎて泣きそう」
ここ…伝わってたらいいなぁ〜。 文字にして伝える引き出しが…私…乏しい。
壱馬が薄暗い中で赤ちゃん抱いて歌ってるって、すごい素敵やと思うん。

自画自賛できるシーン(笑) himawanco


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