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sweet home〜scene7〜
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「ここ、ちょっと距離はあるけどよく見えるから」 陸くんに案内された席はステージが真正面に見えた。
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「じゃ、つかさ?茜さんの事よろしく。ほんと頼んだよ?何かあったら、俺、壱馬にぼっこぼこにされちゃうから(笑)」
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「ん(笑)陸、いってらっしゃい」
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雑誌の中から抜け出たみたいな、爽やかなカップルに溜息しか出ない。
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軽く片手を上げた陸くんに、つかささんが、「ん」って頷いて。
交わす言葉が多いわけじゃない…でもそれが、何かとってもよくて。
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「素敵ですね、とっても。陸くんとつかささん」
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「えっ?そうですか?付き合い長くて…もうすぐ6年とかなんで。
何かもうカップルって感じじゃ…。付き合い長い友達みたいだねって、自分達でも言っちゃう位で。
あの…。
ずっと陸が『壱馬と、茜さんってほんと素敵なんだよ』って言ってて。
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『壱馬と茜さんにしかないって感じがすごくいい』って。 彼がそんな風に周りの友達カップルの事を言うのって本当に珍しくて。
だから私も、いつか会ってみたいって思ってました、年も同じって聞いて尚更(笑)」
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『年上彼女って、ちょっと肩身狭くて…私』って小さく笑う。
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近づいてくる、開演時間。
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「何か緊張する…」
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「茜さん、出る側みたいな事言ってる(笑)」
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「私…LIVE初めてで。つかささんは?」
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「んー、何回かはあるけど」
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「遠くない…ですか?」
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「ん?」

「何か、遠くに感じる気がして…、ずっと来れてなくて私…」

「そっか…じゃあ今回は何で?」
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「ん…、『一番頑張ってるとこ』を見たくなったから…かな。それ見て、私もこれからがんばろ、みたいな。やっぱり出産にはビビってて、私(笑)。
だから、壱馬くんに背中を押してもらおうって」
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「そっか…」
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「わっ!」
パパッって暗転すると、さーって鳥肌が立ってく。
聞いたこともない爆音と共に始まったライブ。
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「本物だ…」
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シルバーの衣装に身を包んだ壱馬くん。
耳をつんざくような、悲鳴にも似た歓声があがる。
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「かっこいぃ…」 思わず立ち上がってしまって。
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「茜さん、座ってよ、ね?」
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つかささんが、立ち上がった私の手をそっと取ると「壱馬くんに怒られちゃうから」って笑う。
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もう眩しい位のオーラで、ずっと壱馬くんから目が離せないまま、ぎゅっと掌を握ってた2時間。
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ライブが終わって、お客さんの大半が帰るまで、会場から離れたとこ待ってると「はい」って私の目の前に出されたオレンジジュース。
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「ビタミンC、大切だから」
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「ありがとう」
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「かっこよかったね、みんな。茜さん、壱馬君しか見てなかったでしょ?(笑)周りと視線の向きが違ってたよ?」
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「えっ?だって…目、離したら見失っちゃいそうで(笑)」
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「ライブあるあるだ(笑)」
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そう言ってお水を飲むつかささんの右手の薬指には、女の人がするにはゴツめな指輪。
これって…。
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「つかささんと陸くんって、付き合って6年って…。
それ…指輪…」
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「ん…何かタイミング逃しちゃって。ずるずる来ちゃってる。
これは、付き合いだして初めてもらった指輪。
『女の人、こんなのしないよ? 普通』って言われた(笑)」
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「結婚…しないんですか?…あっ、ごめんなさい。 えっと…本当にごめんなさい!他人が何言ってるんだ!ですよね。
こんなの壱馬くんにバレたら絶対怒られちゃう。
うち本当にそういうので、ケンカになる事多くて…」
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「大丈夫、大丈夫。そんなの、もう言われ慣れてるから。
慣れすぎて、『また言われちゃった』位だから。
ケンカかぁ…、うちはケンカなんかいつしたかな。
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私、色々言うの嫌で。
自分が言われるのが嫌だからかな…。 陸もあぁ見えて結構そういうとこあって。だからお互い、言わない事の方が多い。そのうち、忘れちゃう(笑)
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私達ね、2人で一緒にいても、別々の事してたりとか、よくあって。
背中向けて他の事してるのに…それが何かいいの。安心する」
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私と壱馬くんにはないその感じ。
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「それで満足しちゃってるのかな、お互い。だからいつまでたってもこのままで…。
ダメだよね、それじゃ…」
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「つかささん? 1個だけ…おせっかい、いいですか?」
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「ん?」
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「『言葉でしか伝わらない事もある』って、私は思ってて。だから…いざって時は!」
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「いざって時?(笑)」
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「んー、ここは言っとかなきゃ!みたいな!『今だ!』って時は」
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「(笑)ん…そんな時は?どうしたらいいの?」
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「年上彼女の実力、発揮です!ね?」
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「…言えるかな…私」
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「言えます!ってか言わなきゃ!」
咄嗟に握ってた、つかささんの掌。
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「ふふっ(笑)精一杯がんばります」 そう彼女は笑ってた。
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6年も一緒にいるんだもん。
『きっといつかは』って2人とも望んでるはず。
そんな未来が、必ず来てほしい。
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…next
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次話はスピンオフ。陸くんとつかささん。

脱線、すみません。 himawanco