sweet home〜scene6〜

梅雨が終わって、グレーだった空の色が一気に澄んだ蒼に変わる。

ソフトクリームみたいな、でっかい雲。

この色合いは好きなんやけど。

『今年は過去最高の気温が予想されます』

ここんとこ毎年聞く気がするな。

寒いんも暑いんもほんま無理やねんて。

今年は尚更…。

大きくなってきたおなかを抱えた茜さんが心配で仕方ないから。

「さすがにちょっとしんどいね。足元見にくいし。今日、階段降りてて、もう一段あるかと思ったら、なくてさ、足ぐにゃってなった(笑)」

「いや、ほんま気ぃつけて？笑い事ちゃう！」

ほんまは1日中、ずっと隣で見張ってたい気分。

『順調ですけど、そろそろ遠出は控えて下さいね、初産婦さんなんで』

そう言われた健診の帰り。

「壱馬くん…私ね、赤ちゃん生まれる前に、行きたいとこあるの」

「ん？どこ？ディズニーはあかんで？歩き回るとか無理やから」

「違う、さすがに私もそれ位はわかってるもん」

「どこ？俺も一緒に行くで？」

「んー、一緒には無理かな。そこにはいるんだけどね、壱馬くん」

「えっ？何？どういう事？」

「これ！」

見せられたスマホの画面。

『THERAMPAGE LIVETOUR2024 CyberHerix』

「私…一回見てみたいの

『THERAMPAGE 川村壱馬』を。

本物をね、生で見てみたい。

だから、チケット申し込んでて、当たったの！」

来週のライブの当選メール。

「えっ…あかん！」

「何で？」

「チビ壱馬、爆音過ぎて何かあったらどうすん！！途中「バン!!!」とかなるんやって！！」

「ネタばれしてるよ？壱馬くん(笑)」

「ネタばれとか、そういうんちゃう！

あかん！！LIVEはあかん！人もよーけおるし。

足元暗いんやで？茜さん階段落ちたりしたら…」

「壱馬くん…実は…」

次に見せられたのはLINEのトーク画面。

その相手は陸さん。

いつの間に連絡先交換したん？

そんなん聞いてないけど。

そこにあるやりとり。

《ライブに行きたくて、チケット当たったんだけど、よく考えたら壱馬くん絶対反対するだろうと思って》

《ん(笑)だね…間違いない。ってか、俺が壱馬の立場でも反対するよ？心配だもん、それはわかってあげて？》

《ん、わかってるんだけど…》

《大丈夫、任せて！俺に。

茜さんが安全に見れるようにちゃんと準備しとく。少し早めに来てもらえる？俺、お迎えに参ります》

俺、何も聞いてへん！

「安全に見えるって…そこまでは陸くんが一緒だって…だからいい？」

もう、周りを巻き込んでるってこの状況。確実に外堀から埋められてるやんか。今更NOとは言えんやつ。

茜 side

ライブ当日。

「茜さん！じゃあ一緒にいこ。ん、それが一番安全やん」

「えっ?一緒に?」

「そ。それ以外はあかん!」

タクシーで行くって言っても「無理、ダメ!」って頑なで。

今、私の座る車の座席の周りには、 THERAMPAGEのメンバーが座ってる。

一緒に会場に向かってる…ライブ当日の朝。

まだ早い時間。

みんないつもの1割ものテンションもない。

隣に座る壱馬くんも、まだ目も開いてるのか微妙。

だいぶこの状況気まずい…。

「おはようございます」

その声と同時に最後に乗って来たのが陸くん。

「おっ、同伴出勤だ(笑)」って私の隣に座った。

「茜さん、今日ね、実は…」

「えっ？そうなの？」

耳元で小さく囁かれた陸くんの言葉に目をパチパチするしか出来なかった。

壱馬side

「はじめまして。つかさです」

俺と茜さんの目の前、陸さんの隣で頭を下げて微笑む人。

どこのモデルさん？みたいなスタイルの良さ。細身のデニムに白T。それに、ジャケット。んで、ヒール。

ん…、わかりやすく陸さんのタイプど真ん中。

「俺の彼女…です」

「えっ、聞いてへん。えっ？」

「ん、誰にも言ってないもん。俺冷やかされるの嫌だし。壱馬と茜さんよりも、俺とつかさの方が、だいぶ長い付き合いなの、実は。」

しれーっと真顔でそう言う。

いや、『冷やかされるの嫌って』あなた、めっちゃ俺らの事冷やかしてましたよね…。

「つかさの仕事ね、看護婦さん。しかも産婦人科勤務」

「えっ？そうなん？」

「はい…、もう結構ベテランです。茜さん、同じ年ですよ、私」そう笑った彼女。

『似てる…』

その顔が、陸さんの笑顔に似てて、２人が過ごしてきた時間の長さが見えた気がした。

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陸くん、実は彼女おった(笑)himawanco